Act47 絶望的な差
夏休み3日目だよ、楽しんでる?
ネカリは人の魔力の量を目視する事が出来る
これは鍛錬……というものではなく
ネカリが住んでいた村に代々伝わるものであった
魔力の質が良いほど美しい色に変わる
魔力の量が多いほど輝きが増す
そしてその魔力の流れを読むことでネカリは
擬似的に相手の動きを読むことが出来る
もちろんあくまで「右腕が動く」くらいの未来視なので
「右腕で何をされるか?」まで把握できない
──質が良ければ美しくなると言ったが
質がある程度ならば白色で浮かび上がることが多い
アリシアであれば絶え間なく輝く金色をしている
アシュレイは青色で同じように光っている
レアは白色だが、しっかりと全身に魔力が行き届いている
今目の前にいるこのシェンドという魔人──
数刻前までは白く輝く魔力だったが
今はドス黒く、ネカリ自身が狂いそうな輝きをしていた
(なんだこれ……気持ち悪いな……)
シェンドの顔に白い紋様が浮び上がる
それに比例するかのように魔力の流れが大きくなる
ふとヒビネの方に目をやり、戻す
特に意味は無かった
しかしその一瞬でシェンドの拳はネカリの腹にめり込む
「ガハッ…」
「戦いの最中によそ見とは死に急ぎか?」
「【風魔術】《ウィド》!」
吹き飛ばされたネカリの身体をレアが回収する
「大丈夫ですか!?」
「ありがとう……問題はな……ッ」
立ち上がるネカリだが膝から崩れ落ちてしまう
ネカリは自分の体の魔力を確認する
やや脇腹の部分の魔力の動きがおかしい
「これは……骨いったな……」
「……!」
レアはこの状況を理解したあと他の3人に伝える
「ヒビネさん、キサラさん、エクレアさん!」
「ネカリさんが行動不能状態です、予測ですが私たち4人では『間違いなく勝てません』!」
「王城宛てにワロウスを飛ばしました、承認されるかはわかりませんが持久戦に持ち込んでください!」
シェンドが繰り出す攻撃を「かわす」ことに専念する
攻撃自体は単調、ただ早く動き殴るだけ
その際も明らかに大きく踏み込む予兆がわかる
避けるだけなら──と、続け30分を超えた
限界は、エクレアに訪れる
「はっ……はっ……」
レアの支援があるとはいえ対峙している3人の中では最も身体が小さいエクレアはキサラとヒビネよりも早く限界が来ていた
「エクレアッ!」
その隙を見逃さずシェンドの拳はエクレアの顔面に近づく
「えっ……」
ゴン、と鈍い音がしたあと
倒れたのは、間に割って入った響音だった
「ヒビネッ!」
「う……」
意識は保っているが、響音の頭はおかしな方向に揺れ、脳震盪に近いものを起こしていた
(……こんな時にあれだけど、試験2日目ヒビネさんの時みたいな一撃は出ない……?)
「お前も考え事か?」
一瞬の油断でレアも詰められる、が
殴られる瞬間にキサラの足が割って入る
「あぐっ……!」
明らかに人体からしてはいけない音がキサラから響いた
そのまま足を抱えながら力なく倒れる
「キッ、キサラさん!」
「レア……逃げ……」
その一言を最後にキサラの意識は失われる
もはや戦意喪失したエクレアとレアだけでは太刀打ちは出来ない事がわかっていた
「……散っていった同胞の為、ここで貴様を殺す!」
レアでも目に視える程の魔力がシェンドの拳に集まる
黒く染まり、空間が捻じ曲がるほどの威力がレアに襲いかかる
レアはキサラを魔術で遠くに投げ飛ばし、目を瞑る
(お願い……!私で……終わりに)
言葉は届かず無惨にもシェンドの拳はレアを貫き──
絶命する
はずであった
「……?」
レアが目を開けると、魔人の体は遠くまで吹き飛んでいた
「被害の具合を考え、一人で自死を決意するその志」
「権力を振りかざす泥貴族にも見せてやりたいものだ」
レアの後ろから聞き覚えのある声が聞こえる
左手に剣を、右手に銃を持ち
赤色のコートの背中にはアヴェルニア王国の紋章が刻まれていた
アヴェルニアに住んでいる人間なら誰もが憧れる
王下直属部隊の隊長のみ着用が許されるコート
「あとは任せろ」
王下直属部隊 【三帝】の隊長
デルガリヒ・アフルレイドがその姿を見せたのだった