Act 43 えっ、じゃあ……
今日は〜水曜日
猫の一族の最後の生き残り、エルーシャ
猫の一族は年齢が10を超えると瞳の色が青くなり
王眼期と呼ばれるものに目覚める
しかし、エルーシャは17になっても王眼期が訪れない
そして同胞は無惨にも殺され自分自身も追われる始末
全てを諦めたエルーシャは
猫の一族の好敵手である存在、獅子の一族に王位継承権を
譲渡し自害すると決めた
あの日、あの場にいた全員は何も言えなかった
……ただひとりをのぞいて……
「えっ、じゃあ……王眼期になるまで隠れてれば……」
アノセのルールに疑問を持てる唯一の少年
響音だけは不思議そうにしていた
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「事情は把握した、エルーシャ様はこちらで保護しよう」
「お願いします、アリシア様」
エルーシャが目覚めた次の日の朝
事情を聞いたアリシアが養成所を訪ねた
あの後、響音の一声が場の空気を変えた
王眼期が来ないとは限らないなら、一旦来るまで身を隠せばいいんじゃないか?と
例え追われる身になっているとしても
アヴェルニア城内であればすぐには手を出せない
アヴェルニアとエルドラシルの信頼を作る為にも……と
「ヒビネちゃん」
キサラが響音に話しかける
「エルーシャを止めてくれてありがとう
先延ばしかもしれないけど助かったよ」
「大丈夫…でも、長くても10月なんだよね?」
「……」
エルドラシルは新たな王を決める定めとして
「蒼い月の日」と呼ばれる日に部族同士の決闘が行われる
猫の一族に勝てる部族がいない為実質的に猫が王位継承権を継ぐ事になっているが
状況があまりにも初めての為、エルドラシル全体が困惑している可能性が高いという
「……私たちに出来ることは何も無い、今は待つしかない」
「それでも、ありがとうヒビネちゃん」
キサラは響音に一瞥して部屋に戻る
養成所の庭で1人月を見上げていた
しばらくすると足音が聞こえる
ザリ、ザリと布が擦れるような軽い足音
この足音は──
「やぁやぁ、黄昏てるね、ヒビネ殿」
狐が鳴いたような声をした少年、ネカリが近づいてくる
今にも倒れそうな白い顔が夜風になびく
飄々としたその表情は心の内を明かせない雰囲気を出す
響音からすると、身長の高さもあり少しだけ苦手な相手だ
「……そんな嫌な顔しなくてもいいじゃないか」
顔に出てたらしい、しょうがないよね
響音の横に音もなく座る
「今なにか面白いこと考えてるでしょ?」
ネカリが響音に直で質問を投げる
響音はなんでわかったの?と言った顔をする
「君は心が真っ白だからわかりやすいよ」
「もし良かったら聞かせてもらえるか?」
響音は少し考えたあとに話す
「エルドラシルって、どうすれば行ける?」