Act36 響音の力
「え〜っと……今日やるのは全員の現段階での能力を確認する事なんすけど〜」
「……なんでこんな空気が重いの……?」
キリナ、それと後から合流したヴィクシーが
思い声をあげる
先程の「貴族の解体」というアリシアの言葉に
アシュレイ、レセナ、エクレアの3人は話さずともオーラだけで落ち込んでいることがわかる
「……アリシアも言葉足らずだったんじゃない?」
「そうッスよ〜御三方、この話アリシアから事前に聞いてましたけど、あくまで「貴族制度の解体」ッスから〜」
響音がルシュに問いかける
「……きぞく?せいどって、何?」
「アヴェルニアの経済を回してる七つの王家だね」
アヴェルニアに存在する貴族──
それはアヴェルニア王国の始まりを語るには切っても切れない存在であった、王国を作り上げたるための財源や各国との貿易など、今のアヴェルニアの基盤を作ったのはこの7つの王家であった
それがなぜ今、解体されそうになるかと言うと……
「……私も詳しくはわからないんだけど、今はその殆どの作業をアヴェルニア王国の中の人がやってるみたいなんだ」
そう……必要ない、のだ
今はほぼ全ての仕事はアヴェルニア王国の経営部隊等が行っておりなにより……
「……貴族の中で派閥ができちゃって」
貴族の中で出来た派閥……これを掻い摘むと
「この国は俺らのおかげでできたんだ、もっと敬え派閥」
「この国は皆の力を合わせてできたんだ、平等だ派閥」
このふたつの派閥が争っており
ここ数年でかなり問題になっていたのであった
「……でも貴族解体をしたら次に変わった何かがまた同じことを繰り返すかもしれないから……難しいんだよね」
「そうなんだ……」
その時うえからポスン、と手が置かれたそこには笑顔のキリナが立っていた
「話……聞いてたッスか?」
「……ごめんなさい」
「わかればよろしい、はい、今からランダムに2人組にするから、それが今日のペアにしてくださいッス」
「その前に、ちょっといい?」
キリナの奥から現れたのは、ベニア
響音の専属の先生になった男だ
「えーっと…アラン少しいいか?」
ベニアはアランを呼ぶと木刀を持たせた
同じようにそれを響音にも渡す
「少しだけ模擬戦してみてくれる?」
「え……ヒビネとですか?」
「うん、あ……もちろん競り合い程度のね?」
そう言うとアランと響音は模擬戦を開始した
木刀の軽い音が響く、どうしても響音が押されてしまうが
しかたない
しばらく打ち込むと、さらに次の命令が入る
「アラン!1番最低火力の炎魔術を低速で打ち込んでくれ、ヒビネはそれを引き続き木刀で受け止めろ!」
指示通りに超低速の炎魔術を打ち込むアラン
それをどうにか受け止める響音
その動きをしばらく続けたあと、ベニアから終了の合図が流れた
アランと響音の2人は少しの息切れを起こしていた
「あの……これは……?」
アランが呼吸を整えながらベニアに質問する
その質問にベニアは質問で返した
「アラン、お前今疲れてるか?」
「え?……まぁ」
「死ぬほど疲れてるか?突然元気を抜かれたように」
「……いえ、そこまでは」
ベニアは考えたあと、響音を起こしに歩く
響音は差し出された右手を掴んで立ち上がる
──その瞬間 ベニアの手が歪むくらいの魔力が響音に向けて展開された
「……ツッ!?」「ベニア!何を!?」
様子を黙って見てたキリナとヴィクシーが止めに入る
「──!!!!」
響音の周りを一瞬何かで包まれる、その瞬間
ベニアは大きく膝から崩れ落ちた
ベニアは響音にあたる寸前で魔力を解除した
結果的に当たることは無かったとはいえ
響音はそのまま頭を抱えて小さくなる
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ガタガタ震える響音を急いでルシュが抱き寄せる
「ヒビネ!ヒビネ!」
「ベニアッ!何を!」
誰が見ても怒っているキリナにベニアは冷静に返す
魔術痕が記された手袋をはめて臨戦態勢になる
「……驚かせたのはすまない、ただし、これでようやくわかったことがある」
「クロード・ヒビネ……彼は」
「【殺意】によって……発動する魔術を持ってる可能性がある……」




