Act35 目標
響音の誤解が色々と解けたあと
1階の講義部屋では「最初の講義」として時間が始まろうとしていた
なお座る席は「最終的にはどの組み合わせでも場の空気に差支えがないように」という事で──
「アーッハッハッハ!ヒビネ!宜しく頼むわよ!」
10人の候補生のうち1番うるさいお嬢様
エクレアと響音が隣同士になっていた
エクレアは響音の手を掴んでブンブンと上下に振る
「魔力が無くて大変だろうけど問題ないわ!」
「なんたって【貴族】の私がいるんだもの!」
エクレアは今にも鼻が天井に突き刺さりそうなほど
天狗になっていた
「エクレア……静かにな」
アリシアの一声が入ると「ハイッ」と短く返事をし
前を向いて黙る
「……さて、今日から本格的な実践や研究などが始まるが」
「その前に、この養成所においての目標と、我が国アヴェルニアの最終的な目標の話をしておこうと思う」
10人の候補生が各々書き記して置くための道具を用意する
ただ、響音はどうしても用意するのは難しく……
「あれ……」
自分だけ何も持ってきていない事に気づく
このままでは……
「ひびね」コショ
エクレアが小さな声で響音に話しかけた
今にもおでこがぶつかりそうな距離だ
「たぶん、まだ荷物の整理してないから空文書とか筆記用具が無いでしょう?」
「多めに持ってるからアタシのあげるわ」
そう伝えるとエクレアは空文書と最低限の筆記用具を
響音に渡した
「あ……、あり、がと……」
その様子を1番後ろの席からルシュが見守っていた
──もちろん響音のために用意した空文書と筆記用具を持ちながら
「良かった…」
ルシュが胸を撫で下ろす
「エクレアさん、思った以上に良い方でしたね」
ルシュの隣に座るレセナが呟いた
「席順が変わるときはどうしようと思ったけど……」
「この講義終わったらヒビネにも伝えなきゃ」
ルシュが後方彼女面(後ろから一般的に(推し)を見守る女性の事、男の場合は「後方彼氏面」なる)をしている中、レセナが用意した空文書等が多いことに気づく
「……あの、レセナ様もしかして」
「うふふ♡何かあった時のために2人分用意してましたよ」
「……恐らく、他の皆さんも用意してますね♡」
レセナの思考のとおり、響音以外の9人は自分のとは別の空文書を用意していた
非常に響音に手厚く甘やかしがちな新生クロ養成所1期生達なのであった
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「では改めて君達の目標を伝えよう」
「非常にわかりやすい目標だ」
「君たちにはここを卒業する2年の間に【王下直属部隊】に入るための資格を得ることだ」
候補生のほぼ全員、特に貴族出身のアシュレイ、レセナ、エクレアは大きく驚いた
「に、2年ですか?」
聞き間違えたか?と確認するようにアシュレイが質問を返す
「ああ、現に私は1年で配属されている、2倍の期間があれば容易になるだろう」
「いや……それは、アリシア様の話であって」
17で養成所を主席で卒業、たった1年で王下直属部隊の【一凪】の隊長に抜擢されている「御伽噺の英雄」と呼ばれるほどの人物
「あくまで王下直属部隊に入れ、ではなく「王下直属部隊に入れる資格」だそれさえ持っていれば卒業後は何をしても文句は言わないさ」
「簡単にいいますが……王下直属部隊の席は30個、入るには運が良くて10年かかると言われている世界です」
それを2年で……という顔になる候補生たち
「難しく考える必要は無い、それに王下直属部隊に入れる資格だけなら1つだけ方法はあるだろう、現に私はそれを利用してまず資格から手に入れた」
「まさか……【厄災級】《ディザ》の討伐ですか!?」
【厄災級】《ディザ》
アノセに存在すると言われる12体の魔獣
全てが人類に対して最悪の被害……まさに厄災を起こすと言われている存在であった
「そうだ、皆知っていると思うが私は半年前に【飛び散り舞う大輪の華】の討伐している」
アリシアは半年前厄災級の一柱である
【飛び散り舞う大輪の華】という魔獣を討伐している
これによりアリシア、デルガリヒ、ヴィクシー、カマリ、キリナの5人が王下直属部隊に入る資格を手に入れた後アヴェルニア王国の王下直属部隊のシステムにメスを入れたのである
「そもそも見つけることすら困難な厄災級を……」
「二柱すでに見つけている」
日常会話のように伝えられたその言葉に絶句する
「エルドラシルとヴァルテン、君たちは1年以降にこのふたつの国に向かうことが決まってる」
「と、言うわけでこれが君たちの目標だ」
「次にアヴェルニア王国の最終目標だが……」
もうこれ以上どんな目標があるのかと思う面々だが
次に紡いだアリシアの言葉にさらに驚くことになる
「【王下直属部隊の解体】だ」
「は!?」
これにはルシュも大声を上げてしまう
「おねっ……あ、アリシア様、どういう事ですか?」
「簡単だ、国の脅威となる可能性があるからだ」
「アヴェルニアは将来的に防衛兵士のみにしようと考えている、私も例外では無い」
「その為に「当面の目標」だけで言うなら私は【貴族の解体】と【厄災級魔獣の全討伐】だと考える」
この発言に貴族の3人は苦い顔になる
「……言いたいこともあると思うがそろそろ訓練の時間になる、君たちの目標と当面の目標は伝えたので私は戻る、キリナ様、後はお願いします」
そう言うとアリシアは外に出てしまった
「……いや、どーするんスか……この空気」
キリナは深くため息をついた
気まずい中最初の訓練が始まろうとしていた