Act29 入寮
アヴェルニア王国の城の裏を出ておよそ2時間
裏を守るように存在する巨大な山を超えた先にある
王立機関アクロア、通称「クロ養成所」
今現在存在する王下直属部隊の多くは養成所出身
誰もがこの場所に憧れ、その道を目指す
そんな場所に今日、10人の若者が新しく入寮する
「この間来たばっかなのに、なんか懐かしいね」
「そう……だね」
「じゃあヒビネ、入る前に確認ね」
「寮生活が始まる時の約束3つはなんだっけ?」
「えっと……」
「 1 自分が違う世界から来たことは言わない
2 事前に決めた自分の設定を忘れないこと
3 上2つ以外の嘘はつかない……です?」
「そう!忘れてないね」
響音がこの世界にきてから3ヶ月強が経つ
時間が経過したとはいえ響音はまだこの世界の事
そしてなにより「常識」をまだ覚えきれてない
ルシュの矯正で多少は直ったものの
まだ移動用家畜「バロン」を「ウマ」と言ってしまう事もある
「仮に、間違えたりした言い方した時はどうする?」
「……自分がいた集落だと、違うかも……?」
「そう!変な人じゃなければそれで通用するからね」
アノセに置いて、響音が違う世界から来た
という情報を知ってるのは ルシュとべスキア夫妻の3人
「……お姉ちゃんは多分、バレてる」
「次会った時にきちんと話すしかないね」
ビグ中央広場での熊型魔獣襲来の際にルシュは
「迷い人」と響音を紹介していた
これを「本当に遠い場所から来た世間知らず」と解釈してくれれば助かるのだが……
「さ、じゃあ入ろっか」
寮の正面玄関、木製の大きな扉を開ける
正面入って目の前には昔の宿泊施設の名残で大きなカウンター、左に売店、右手前にリビング右奥に階段がある
部屋の数は全部で20部屋 3階建てで屋上もある
「この間は人が沢山居たからあれだけど、広いね」
ルシュがフロアを見回してると
リビングから声が聞こえる
「おふたりともー!こっちっスー!」
王下直属部隊のキリナがリビングから手を振っていた
2人はリビングに入る、既に何名か到着していたようだ
「ヒビネ!」「ヒビネさん!」
「ワダ……ア、アランとキサ──」
その返事を聞くまでなくアランとキサラは響音に飛び込む
「ずっと待ってたんだぜヒビネ!今日からよろしくな!」
「相変わらず良い匂いですねヒビネ…キサラ、昂ります」
床に倒れたかと思いきやキサラの髪の毛がクッション
となって怪我はひとつも無かった
その音を聞いてリビングの奥にあるキッチンから
アシュレイとレセナが出てきた
「ヒビネ、来てたのか」 「あら、楽しそうですわね♡」
ヒビネの周りにたくさんの人が集まる
全員名前で呼んでいる為、相手も接しやすいんだろう
「おーっほっほっほ!ルシュ! やっと来たんですのね!この私、エクレアを待たせるなんて中々──ヒッ!?」
ルシュの顔をエクレアが覗き込むと──
「……え?あっ、エクレアちゃん、ごめんね!」
「あっ、えぇ、おほほ……」
(今……人でも殺しそうな顔してましたわ……)
それは嫉妬心なのか、それとも……