Act28 王立機関アクロア 入寮の前に……
28話です!
王立試験に(仮)で合格することになった響音
数日後……ついに養成所に入寮する事に
入寮前に、ベスキア夫妻に呼ばれて……?
徐々に空気が暖かくなり 地球で言う春の季節
城下町にもロウチェ(桜)が咲いていた
そんな中 宿屋べスキアでは
フォルとブライがルシュと響音の見送りをしていた
「忘れ物は無い?大丈夫?」
フォルは最後まで2人の心配をしていた
合格するかもしれない──とは思っていたが
まさかこの世界に来て3ヶ月弱の響音まで合格するとは
思ってもいなかったからだ
「……それで、昨日は最後に色々お祝いしてくれたけど」
「今日入寮日で……「来て欲しい」って何かあったの?」
ルシュに理由を問われたフォルはブライの方を見る
ブライは店の奥から大きなバックを響音に渡す
「……?」
「これはな、ヒビネ」
「君の服だったり、生活に必要なもの、少しだけどルニアも入っている」
「……え?」
響音がいちばん大きなチャックを開けると
そこには沢山の服と財布、整髪料などが入っていた
「いやな……本当に申し訳なかったんだが」
「受かるとは思ってなくてな……だから先にヒビネがここに住む用のモノを色々と買い揃えておいたんだよ」
話によれば──ルシュが受かって、響音だけが残った時のために、部屋の一室とその他もろもろの生活環境を整えていたのだという、お店の裏方でも手伝ってくれればちゃんと面倒を見てくれると……
「なんで……」
「うん?」
「なんで……ぼく、なんかに……?」
ブライは一瞬キョトンとするが
そのまま言葉を繋ぐ
「そうだなぁ……ヒビネ」
「君と会って3ヶ月、いろいろあったけど……」
合わせるようにフォルは響音の頭を撫でる
「お節介かもしれないけど……アンタはもう」
「ウチらの家族だからさ」
家族
それは響音にとっては呪いの言葉
家族から暴力を受け、家族から見捨てられ
最後にはその家族に殺され……
それでもルシュとべスキア夫妻から受けた
優しさと愛情は響音の心に絡みつく錠のひとつを
今、開けることが出来た
「……いいの?」
響音はたまらなく涙を零す
「家族で……いいの?」
感動と恐怖が混ざった涙だった
「口答えしません、うるさくしません、言うこと聞きます、ぜんぶ、ぜんぶやりますから」
「お願いします、殴らないで、熱くしないで──」
「ヒビネ!」
響音の悲惨な声をかき消すようにフォルが
響音を抱き寄せる、ブライは背中を摩り、ルシュは響音の手を握る
「大丈夫さヒビネ……誰もしない、誰もそんな事しないよ」
「親の言いなりになって……自分が壊れる環境は、家族とは言えない……大丈夫だからね」
「誰なんだ……」
「誰なんだ、この子をここまでにしたのは……!」
怒りと悲しみの声をブライは上げる
響音を落ち着かせたあと、改めて夫妻は伝える
「いいかい響音、私からしたらもうアンタは家族なんだ」
「この先何かあった時、養成所が辛くなったり、誰かにイジメられたりしたら……」
「ここに必ず私たちはいるから、戻ってくるんだよ」
かくして響音の心の錆びはひとつ晴れた
家族という絶対の信頼がない世界で生きてきた響音
奇しくも生まれ直した世界ではその愛を知ることになる
まだ彼の物語は始まったばかり……
これから先、様々な問題がある事も知らずに
今はまだ、見守ることしか出来ない
傷まみれの旅人 第一章
【王立試験編】閉幕
いよいよ2章 《養成所邂逅編》に入ります
長くなると思いますが応援よろしくお願いします!