Act27 歯車 動く
物語はまだ、序章にすぎない
これから始まる物語の1枚すら、めくれていない
とある山奥の場所──
2人の男女が薄暗い場所で激しく言い争っていた
場所は神聖なる神を崇める教会──
中央で見下ろすように立つ女神像は大量の傷と共に粉々に破壊されていた
「クソっ!クソっ!!クソっ!!!クソがッ!!!!」
罵声を叫びながら女神像を殴り続ける男
その拳は血にまみれ、いまにも肉片がこぼれそうになる
「……石像に当たっても仕方ないだろう」
殴り続ける男を礼拝の椅子に座りながら
見る気だるそうな女
しかしその言葉にはどこか怒りを含んでいた
「どうしろってんだよ!殺されてんだぞ!」
「クロがッ!殺されたんだ!」
静かな教会の中に男の怒りの声が反響する
天井に溜まっていたホコリが落ちる
「……まだ死体は見つかってない」
「それどころか、先生とあのクズを殺した容疑者として警察も動いている」
「クロがッ!人を殺せるわけないだろ!!!!!」
「しかもセンセイは死んでねぇ!意識不明ってだけだろ!!!!!」
「……ならば!誰があの男、神阿光大を殺した!?」
「……先生が殺した?ありえない!」
「なら、クロが殺したのはありえるってのか!?」
男は夜叉の表情で女に問いかける
「…………………………ありえない……ッ」
女は疲れきった声で回答した
「……ガチで、なんなんだよ……」
「クロといいセンセイといい…………シスターまでッ!」
「孤児院のチビ共もッ……!」
男は女神像だけでは飽き足らず床さえも殴りつける
2発、3発と殴るうちに床にヒビが入る
「なんなんだよ……なんなんだよッ!!」
「なんなんだ……」
床を殴る音が小さくなり、やがて床に這い蹲るように
怒りと悲しみの声は月が照らす教会の中をこだまする
テレレンテンテンテンレンテンテン……
「……はい、私です」
「……はい、はい、わかりました……では振込はその様に……はい、ありがとうございました」
「……なんの電話だ」
「今しがた、教会を焼いた詐欺グループのメンバーとその関係者全員の戸籍を抹消した」
女は淡々と電話で伝えられたことを男に告げる
「そして解析の結果……響音はやはり私の予想通り、あの家から痕跡もなく消滅している」
「……何が言いたい」
「なぁ……キミはこの世界に未練はあるか?」
「……何だ、いきなり」
「私はもうない、両親は亡くなってる、育てのシスターも亡くなった……これから大きくなるはずのあの子たちも、もういない、先生も助かる見込みは無い」
「……」
「だから私は──オカルトとやらに頼ってみるよ」
女は、一冊の本をカバンから取り出す
「なんだこれ……」
パラパラとページをめくると、やがてひとつのオカルト記事のページになる
3度目の神隠しか!?
12月23日、──県──市の住宅にて
男性1人と女性1人が意識不明の重体で見つかる事件が起こった!(中略)この際に実はもう1人の人物が倒れていたことが判明した、しかし歩き去った痕跡も運ばれたあとも何も無い「神隠し」の状態であったのだ!
この記事は過去にも8月25日、──道の──市のビルで死亡していた21歳のOLと10月30日、都内の私立高校で自殺をした18歳の女子高生の神隠し事件と同じなのではないか!?と話題になっていた!
というのもこの2人の共通点として直近で「大切な人」
を失っている可能性が出てきたのだ、前者は彼氏、後者は自分の親だという噂もあるが今回亡くなった15歳の少年も何か「大切な人」を失い神隠しに──
──男はそこまで読むとその本を引きちぎった
ここまで読んだ内容を見せたかったのなら、この女は
「お前……死ぬつもりか」
「あぁ」
「私はもう、本当に誰もいない、唯一の心残りだとしたら、お前だが……」
「……俺にも逝けと?」
「……」
「いいぞ」
「!」
「親もクロも……シスターもチビも……」
「お前が居なくなるなら、それこそ俺は何も無い」
2人は教会を後にすると、隣の焼けこげた建物まで歩く
当たりはすっかり暗く、月の光だけが2人を照らす
「お前のことだ、手っ取り早く死ぬ方法あるんだろ」
男はそう言うと女は2錠、薬を取り出す
「まだ国で公にもなってない薬だ、段々と微睡みが来て
目をつぶれば楽に死ねる」
男は間髪入れず薬を取ると口の中に放り投げる
「……おい!」
「別に死ななくてもいいぞ、お前顔だけは1級品なんだから色んな道あるだろ」
「……ここまで来て、引き下がれるか」
女も続いて薬を飲む
2人焼けた木材の上で目を瞑る
「シスター……」
「アキラ……ショウ……ユリ……タケ……ミナミ……アコ……」
「……響音」
「今……行くぞ……」
こうしてまた、ふたつの命が終わりを迎えた
理不尽な世界産まれ、理不尽な選択を重ね
あまりにも無慈悲な自分の物語
それでも最後は自分の意思で
自分の想いで運命をねじまげた
さぁ、まだ物語は始まってすらいない
歯車がひとつ、重なり、動く──
──山奥にある、孤児院の放火事件……
容疑者である……グループのメンバー全員の死亡が確認され……後日再調査に赴いたところ……
2人の男女の遺体が発見されました……
へびうろこです
いよいよ新章が始まります!
この男女2人は物語にどう関わってくるのか……
お楽しみに……!