Act23 王立試験 最終日 響音とアランとキサラ
23話です
知らなかったとはいえ名前で呼んでいた響音
それに反応したのはアランと一緒にいた人で……?
「なるほど……ヒビネがここに来る前にいた場所は名前が後に来る風習だったって事だな?」
「う、うん、そうなんだ」
(嘘はついてないよね……?)
「それでそこのピァーニも、2日目の試験で一緒になった女子も初対面から名前で呼んだと……」
アランは深く深く頷くと、突然年相応の顔になる
「知らないとはいえやるな……ヒビネ」
「なにを……?」
アランは困惑した、彼の者は本当に男性であり、15歳なのかと
その様子を黙って見ていたアランと共にいたもう1人
やけに髪が長い、推定女性の人間がアランと響音を
「髪の毛」で捕まえると食堂の隅っこまで移動させる
「クロード様」
今にも人を殺しそうな見た目をしていた
日本で言うなら「魔女」のような……
「……」
響音の顔は今にも泣き出しそうな顔
先程気を利かしたアランの行動が全てお陀仏になった
「ご安心くださいクロード様」
「私は貴方の敵ではありませんので……」
まがまがしく動く髪の毛は段々と纏まり
それはやがて美しい黒髪……と共に明らかに同じ人間ではないパーツが頭の上に着いていた
耳だ──人の耳じゃない、獣の耳
「失礼……私、エルドラシルからやって参りました」
「獣人種……個体名は狼のキサラです」
土と幻想の国 エルドラシル
アノセの西に位置するこの国は四大国家の中でも
最大の大きさの大陸であり
とにかく自然豊かな国で、一説では巨大生物の背中なのでは無いかと言われている
エルドラシルに住むのは 獣人種、森人種、妖精種が基本
そこから様々な種類の生き物たちが暮らしている
余談だが、エルドラシルの実質的な頂点は【猫の王】
と呼ばれるらしい
キサラはその中の獣人種で狼の血を強く受け継いだ個体であった
「うふふ……初めてですか?獣人種を見るのは……」
響音はキサラの耳に興味津々だった
響音は幼い時1回だけ動物園に行った事がある
その時一瞬の楽しい記憶だけが砂粒のように残っている
それ以降は楽しい記憶など存在しないのだが
「それはそれとて……クロード様?」
「あっ、はい」
「ルシュ様の事、どう思っておりますか?」
「どう……?」
キサラからされた質問の意図が響音にはわからなかった
だからこそ響音は素直に答える
「優しい……よく喋る…………?」
「ほうほう」
「……元気?」
「「……………………」」
アランとキサラは同じことを考えていた
この子、あまりにも天然すぎるのではー
「ヒビネ……もっとこうさ……」
「まぁ顔とか……」
とんでもなく失礼な発言をしたアランだが目をつぶる
「顔……」
──響音ちゃん、女の子はね……
ルシュの顔を思い出しながら、先生の言葉も思い出す
「……人形」
「え?」
「人形……みたい、綺麗……」
「びゃあああああああ!?」
叫び声はアランでもキサラでもなかった
いつの間にか3人に近づいていた──ルシュ
ルシュの顔は赤を通り越して黒(?)になっていた
「いっいいい……今今なんて……」
ルシュはもはや誰も存在しない方向を指さしながら
その場で回っていた、やがて響音と目線が合うと……
「さよならー!!!!!」
「あっ……!」
明後日の方向に走るルシュ
それを追いかける(足が遅い)響音
アランとキサラは誓った
必ずやあの2人を幸せにさせねばならないと
何も言わずに固い握手をしたのだった