Act21 王立試験 終了……?
21話
試験三日目を寝過ごし脱落となってしまった響音
そこに現れたのは……?
「いや、少し待って欲しい」
部屋に入ってきたのは【一凪】隊長 アリシア
ルシュの姉だった
「アリシア、帰ってきたんスね」
「はい、王城に用がありまして……」
「こちらへ」
アリシアは自分の後ろにいるもう1人の人物に声をかけた
そこにいたのは
「デュ……デュアゴ様!?」
白髪に白髭生やした貫禄のある老人──
王下直属部隊【二蓮】隊長 ローガン・N・デュアゴ
炎魔術を得意とする皇族 「N」の冠を持つ男
その実力は誰もが認める
何を隠そう 「元」【一凪】の隊長でもあったのだ
「かしこまらなくて良い……キリナ」
「わざわざ御足労頂きありがとうございますデュアゴ様」
「よく言うわい……半分強制じゃったろうて……」
ローガンは椅子に腰かける
ただの木製の椅子が途端に気品ある椅子になったようだ
「して……ここに連れてきた理由は?」
アリシアは頷くと響音とルシュの所まで歩く
2人に立つよう促すと、ローガンの前まで連れてくる
「2人とも、自己紹介を頼む」
「あっ、ル、、ルシュ・ピァーニと申します!」
「黒海堂……響音……」
ルシュは緊張しながら、響音は警戒しながら話す
「ほっほほ……そんなに緊張せんでもいい……」
「はて、ピァーニ……?」
ローガンはアリシアに目を向ける
それもそうだ、アリシアと同じ姓名をしているのだから
「姓名が同じなだけです」
「……そうか」
アリシアは冷たく言い放つ
ルシュの顔はとても寂しそうだ
だからこそ響音は立ち上がっていた
理由はわからない、この感情が何かもわからない
「ルシュが悲しんでいるかもしれない」
他人のために動くなんて事はなかった
それでも今響音は、1歩だけ進んだのかもしれない
「……なんで、嘘つくんですか?」
アリシアの目をじっと見つめて呟く
「ルシュは言ってました」
「強くてカッコいいお姉ちゃんが居るって」
「毎月、ルニアも渡してくれてるって」
「嫌われてるかもしれないけど、大好きだって」
「叶うなら王下直属部隊に入って、話したいって」
響音の口から言葉は止まらない
この世界に来てからおよそ3ヶ月
ルシュと過した日々の中に姉の話はあった
もう何年も会話してないこと、両親が悪魔にやられてしまった時に1人で戦ってくれたこと、お揃いのピアスを付けてること……
「…………付けてる、ピアス」
アリシアは左耳のピアスに触れる
ルシュも右耳ついてるピアスを撫でる
アリシアは少し考えると
「……デュエゴ様、訂正致します」
「この子はルシュ・ピァーニ」
「私の……妹です」
「ふむ、わかっていたがな」
「隠す理由は知らんが……身内を他人扱いとは」
ローガンは静かに怒りを培っていた
顔は冷静でも溢れ出る気力は漏れ出していた
「場合によっては手も出てしまうのぅ」
「……そこな少年のおかげで助かったがな」
ローガンは響音の前に立つと頭を撫でる
その顔は慈愛に満ちた表情をしていた
「友のためなら最強にも……か」
ひと満足するとローガンは椅子に座る
「それで?」と言うようにアリシアの顔を見る
「……ではデュエゴ様」
「私の妹……という忖度を抜きにして」
「こちらのヒビネとルシュ……2人をどう見ますか?」
アリシアの言葉を聞いたその時──
その場にいたキリナとローガン、ルシュでさえも
「あ」という表情になった
ただ1人響音だけはよく理解は出来ていなかった
「……?」
「……なるほど、すまなかったアリシア」
「……いえ」
響音が後から聞いた話では……
アリシアはルシュが妹というのは大前提として
ルシュはアリシアの妹だ、という情報が先行すれば
多少なりとも、見る目が変わってしまう……という事で
あの場ではわざと、他人のフリをしていたんだと言う
「アリシア、まずは事の発端を説明したらどうスか?」
「ん……そうですね」
アリシアは咳払いすると響音を座らせて話し始める
「……まず、ヒビネ」
「大前提として君は脱落している……隣のルシュもだ」
ルシュも脱落している──その言葉に響音は
驚いたが……ルシュは事前に「私は落ちる可能性が高い」
と響音に伝えていた
「今回私たちは、10人の合格者を出す予定であった」
「ただ……やはり3日間では測れないものがあると考えた」
300人以上いた試験者からたったの10人──
「今までの流れでは皇族……及び単純な魔力量など、
血統と目に見えるものだけで判断していた」
「だが、私はそれを変えたい」
アリシアは強く握りこぶしを作る
「既に6人の合格者をこちらは出している」
「問題はあと4人……まだ選ぶことが出来てない
これは合格者6名にはもう伝えてある」
2日目終了時点で32名の試験者から
6名は合格者がでている、そして残り28名は脱落していた
本来だとその28名から魔力量や血統などで決まると──
「ここからが本題だ」
「この28名のうち私は数名を残して【4日目】の試験を受けてもらおうと思う、そのための選抜を私とローガン様で今決めているんだ」
その言葉を皮切りにローガンはまた優しい表情になる
「ほっほほ、今2人増えるがな」
ローガンが放ったその言葉の意味を数秒理解できなかった
が、段々とルシュの表情が明るくなる
「という訳だ、2人は明日に向けてもう寝た方がいい」
「この養成所には私たち王下直属部隊6人と合格者6名」
「そして君たち含めた4日目の試験を受ける14名がいる」
アリシアは正確な人数を伝えるとそのまま部屋を後にする
部屋から出る所でもう一度振り返る
「言い忘れてたけど試験内容は【1日養成所で過ごす】だ」
「では、楽しみにしてるよ」
最後にそう言い残すとアリシアは去っていった
よく理解できない試験内容に頭を悩ませる響音とルシュ
その日はそのまま少し話してから終わるのだった