Act17 王立試験 2日目 試験中
休憩ありがとうございました!
17話が始まるよ!
響音とレアは森を歩いていた
養成所の方角自体は予め持たされていたコンパス
ご丁寧に「赤い方に来るんだぞ!」とメモが貼ってあった
2人の間には沈黙が続いている
それどころかレアはヒビネのだいぶ後ろの方を歩く
響音は特に気にせず前を黙々と歩くが
レアからするとも将来同期になるかもしれない仲
少しでも仲良くなりたいと人並みには考えていた
「あ、あの」
勇気を出しレアが話しかける
「ん?」
響音は振り向き、止まり、目線を合わせて話す
その一連の行動は当たり前だとしても中々できない紳士的な行動であった
「あっ、えっと」
レアは性格的に適当に扱われることが多かった
引っ込み思案で声も小さい、近くに住んでいた同年代の子からは「あんな子いたっけ……」と言われる始末
そんな自分を少しでも変えたくて挑んだこの試験
まさかの相手は男の子でしかも自分より無口
そこまで目線をしっかりと合わせられると
流石のレアも思考が停止してしまう
「………………あっ」
響音は思い出したように呟くと
レアの真横まで足を戻した
「あのっ……何を?」
顔面の色素が赤に染ったレアは
何とか声をだすそれに対し
「ごめ……ん、歩くの、速かった、よね?」
「……!」
その言葉を聞いてレアは思った
この人、本当に優しいんだと
この時レアの響音に対する感情は──
なんとかして友達にまでなりたい!だった
「いや……!歩く速さは大丈夫、私が勝手に後ろ歩いてただけなので……」
「……それよりもそう!コイン増やすって、どうすればいいんだろうね?」
響音はポカンとした顔でレアを見つめる
やがてしばらく考えたあと……
「……買う?」
「え!買う!?」
響音の回答に思わず大声を出してしまう
「奪う」「交渉して貰う」くらいしか考えが出なかったレア
は自分の考えの狭さに頭を悩ませてしまった
キラキラとしたコインを響音は取り出す
「でも……そうだね……こんな綺麗なコイン……いくらするかわからないよね……」
響音の顔は本当に買うことを考えているようで
レアも段々と顔が緩んでくる
「でも……コインの枚数は関係ないから……大丈夫じゃない?」
「え?それってどういう……」
響音が不思議なことを口にする
その瞬間明らかにおかしな突風が二人の間を通る
「きゃあ!」
「……」
レアは頭に被る帽子を抑えて座り込む
響音は微動だにせず風が吹く方向を見つめる
だからこそ風の間をぬって移動する人間を視覚で捉えていた
1人の影、その見た目、その人間は
軽く空中で回転したあと、2人の目の前に立つ
「オルト……さん?」
「おぉ、名前覚えてたのか泣き虫のガキ」
試験1日目の夜に響音の肩を乱暴に掴んだ青年だ
「悪いが急いでいるんでな、話してる暇は無い、じゃあな」
そう答えるとオルトは風に乗って遠くへと飛び立った
「な、何だったんですかね」
レアは髪の毛を整えると響音に近づく
「たぶん……コイン欲しかったんだよ、ほら……」
響音は両手をパーにしてレアに見せる
コインが盗られていた
「はえっ!!?!??!?」
レアが今まで出したことの無い声をあげる
「どどどどどうしましょう!!!」
レアが大慌てで響音を掴んで大きく揺らす
響音はされるがままになっているがそのまま話し出す
「いいいいや、だだだだ、、から……コインンンンん……のまいまいまいまままいすうは……関係、かわかわかわ……ごめ……離して……」
「……?」
レアは手を止める
ただし響音が「離して」と言ったからではなく──
「何か……聞こえませんか?」
「……え」
響音には何も聞こえなかった
それこそ聞こえるのは風と木々の擦れる音だけで……
「こっちです!」
レアは方角も定かではない方に走っていった
響音も急いで後を追いかけた
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──時は進んで養成所前
「ふざけんじゃねぇ!!!!!!!!!!」
養成所の前で怒号が響き渡る
見れば皇族の試験者オルトがデルガリヒの首根っこを掴んでいた
「俺が……脱落だと……!?」
オルトは震えた声でデルガリヒに抗議の声を上げる
「おーう、間違いないぞお前は脱落だ、一旦養成所の2階に行け」
「だとゴラァ!」
オルトはデルガリヒを思い切り殴りつける
デルガリヒはその場に倒れ込む、だがそこまでダメージは受けていないようだった
「青いガキでいいねぇ」
「どんなに大声上げても、殴っても、パパに言いつけてもいいぞぉ、なにしてもお前の脱落は変わらん」
オルトの顔はあの日の夜のようにみるみる内に怒りの表情に変わっていく
「……悪いが今回ばかりはテメェに非があるぜ」
「言ったよな?コインを2枚持ってこいって……」
オルトはコインを2枚デルガリヒに見せつけた
正真正銘、響音とレアから奪ったコインだった
「そうか、2枚集めたか」
「凄いな」
デルガリヒはそう伝えるだけで、それ以外は何も話さなかった
「……わかんねぇのか!?だから俺はどうしたって合格にしなきゃならねぇんだよ、自分の作ったルールも守れない連中なのか?王下直属部隊ってのは」
オルトが段々と調子に乗って話しているのがわかる
確かに最初伝えた内容は達成している
「ああそうだな、ルールに乗っ取って」
デルガリヒはゆっくりと立ち上がり
再度オルトの前に詰め寄り伝える
「お前は脱落だ オルト・U・リセイス」
「…………」
オルトはついに怒りのあまり冷静になっていた
「……なんでだ、なんで皇族の俺が脱落して」
「この何も出来ねぇメガネと泣き虫ガキが合格なんだよ!」
オルトの指さした方向には、響音とレアがいた
「……そうだな、まず」
デルガリヒはコインを2枚持つ
「俺は2枚にして養成所に戻ってこいって言っただけで」
「2枚持ってきたら合格なんて言ってないんだな」
コインはなんとペリペリと外側が向ける
中身は真っ黒な物体だった、デルガリヒはそれを食べる
「これ、オルチ(チョコ)なんだよな、2枚来たら嬉しい」
「……まぁ、そこの2人が何したのか聞くのが一番か」
デルガリヒは響音とレアにオルチを渡すと
2人の頭を撫でる
「2人とも聞かしてやってくれ」
「2人は森の中で何をした?」
そう言うと響音とレアは、先程までの出来事を語り始める