生きるということ
あれから、俺達は水鏡を潜って家に戻って来た。
『どうしたんじゃ?皆浮かぬ顔をしておるよ?』
『ぴーぴー』
ぴーちゃんはパタパタと飛んで坊の頭に止まった。
「今日は夢見の里に着いたの。里の人達は皆んな眠ったまま、夢を見続けていたわ。私何だか納得出来なくて」
「あんなの良くないに決まってる!」
「…ミケは悲しそうだったな」
『…そうか。私もあの里の民には思い入れはあるがのう。』
「何とか、目覚めさせる事はできないかしら?」
雪乃は、カイを見て、
『それは出来るじゃろう。しかしのう…奴らはそれでは納得せんじゃろな。』
そうなのだ。目覚めさせる事ならば、カイには出来る。しかし、夢見の民は自ら望んで眠りに着いているのだ。
「それは、そうだけど…そうね…」
「何でだよ!ミケだって、あれは呪いだって言ってたぞ!」
坊はどうしても認めたく無いのだろう。
「明日、ババ様に相談してみようか?」
「そうね。ヒロやアキにも聞いてみましょう。」
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「そうかいそうかい。また、厄介な話だね。」
ババ様はカイ達の話を聞いて、そう言ったが、
「だけどね。私の答えは決まって居るよ。カイと坊も分かっているはずさ」
ババ様はレイヤに向き直り、
「私達はこの恵みの大地に生きている。恵みの神様の恩恵を頂き、恵みの神様の祝福を授かって生きているんだ」
「でも、彼らはそれを捨てる事を選んだのだろう?」
レイヤはそこで気付いた。彼らは繋がりが途切れているのだ。
「結局は、本人が望むか望まないか。それだけさ。」
坊は悔しそうにババ様を見ている。
「坊。誰かを自分の思い通りにしようとするのは、わがままと言うんじゃよ?」
ババ様は、優しく優しくそう言った。
「…うん」
坊も分かっているのだ。
「俺とアキ、ババ様もだが。心の世界で繋がりを得た。それはとても暖かくて優しいものだった。二度と無くしてはならないものだ。」
「そうね。夢見の里の人達には、それよりも大切なものがあった。そういうことかしら?」
「………ミケが可哀想なんだ」
「…そうだな」
「ババ様、ヒロ、アキ。話を聞いてくれてありがとう。」
「ああ、またおいで」
「レイヤちゃん!今度はゆっくりお話しましょう?」
「ええ!またお邪魔するわ!」
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その夜、カイは中々寝付けないでいた。
『カイが眠れないなんて、珍しいわね?』
シロが可笑しそうに笑う。
『ぴーちゃんも飛べる様になって来たし、そろそろ連れて行ってあげたらどうかしら?』
「……それはいいね。うんうん!流石シロは凄いよ!」
『フフフッ。私はあなたの妻ですもの。』
月を観ながら、仲良く寄り添う二人であった。




