幸せのかたち
「ずっと寝てたらお腹すいちゃうぞ!」
「田んぼだってあったわよ?田植えしてあったけど、ミケが一人で全部やってるの?」
「この村で夢を見ること以外に大切な事なんて無いんだ。」
ミケは人差し指を立てて、まるで教師の様に語りだす。
「美味しいご飯をお腹いっぱい食べる夢を見れば、お腹が膨れる。綺麗な田園風景を夢に見ればその景色に包まれるのさ。」
カイは手帳を取り出して地図を見ると、この階層には大きな滝が描かれている。今回の目的地であった。
「俺達はこの滝を探してるんだけど、ここに滝なんて無いね」
「滝か。それは今は難しいだろうな。君達はこの夢見の里を見てどう思う?」
「オレは好きじゃないな!」
坊にしては珍しく否定的な言葉が飛び出す。
「夢が現実となるなんて、素晴らしい事の様に思うけどね。何か違うわ。」
「夢の中だけで生きて行くなんて、人間の生き方じゃないな」
「フフッ。その通り。」
ミケは何処からか眼鏡を取り出してかけると、
「夢見の民は夢に呪われた民なんだ。」
「これは呪いなのか!?」
「以前は、皆普通に暮らしていたんだ。」
カイ達はミケの後に付いて、近くの家に入って行く。
「これを見てごらん」
綺麗に掃除され、整えられた室内。
ミケが手に取ったのは、一冊のアルバムだった。
古い写真はセピア色で家族の写真が多い。皆幸せそうな顔をしている。
赤ん坊の写真もあった。次第に成長する子供達と共に写ったネコの姿のミケもいる。
ページをめくって行くと、写真はカラーになり農作業をしているお父さんの写真や、村のお祭りの写真などもある。
「幸せそうじゃない。楽しそうに笑っているわ」
「もちろんさ。夢見の里は幸せにあふれる、本当に素晴らしいところなんだ。」
いよいよ、最後のページをめくり、
「そして、今もね。」
そこにはページ一面に写る家族達。
皆んなで食卓を囲み、楽しそうに食事をしている。
「この写真動いてるぞ!」
「これ、動画じゃない!」
「なんだよ。まるで、アルバムに閉じ込められたみたいだな」
「その通り。」
ミケは眼鏡を指でクイッとあげる。
「夢見の里はこのアルバムに取り込まれてしまったんだ。自ら望んでね。」
「…なんてことなの」
「そんなのダメだろ!」
「………」
ミケは少しうつむき、悲しそうに笑っていた。




