【シェルター】
地下3階に直通のエレベーターを降りると、6畳程の小部屋(恐らく洗浄と防衛を兼ねているのだろう)を二つ抜け、モニターやボタンが並ぶ管理室に出た。部屋の両側に扉があったが、右手の扉を潜り奥に進む。
「まるで要塞ね」
「核爆発も直撃でなければ耐えられます。50名が3年間生存する事を想定して設計されております。」
更に奥に進んで行くと、通路は広くなり両側に扉が並んでいた。
「この区域には私達が詰めます」
やがて学校の体育館程の開けた場所に出た。
「あちらになります」
その扉は重厚な木製の扉に見えたが、実際には特殊合金製なのだそうだ。
中はホテルのオーナールームと遜色はなかった。地下とは思えない快適さだ。
「お嬢様。宮川がご報告に参りました」
「よろしい」
「失礼します」
「報告を聞きましょう」
「はい。先ずは宿泊客200人のうち5名が目覚めておりますので、そのままの客室で待機させております」
「目覚めた人がいたのですか」
「はい。いずれも健康状態に問題は無いようです。残りの195名を拘束し移送が終了致しました。その内1名を研究室にて拘束しております。」
「分かりました。今から移動します」
「私も行くわ」
「宮川さん、どうかしら?」
「問題点ありません」
「柳ちゃんもいるしね!」
「フフッ、お任せ下さい」
「では、参りましょう」
管理室まで戻り、もう一つの扉を潜るとその廊下の両側はガラス張りになっていて、いかにも研究室といった風景が並んでいる。
「こちらが衆議院議員の殿間さんです」
「…まさか」
「他の宿泊客もこの様に?」
「左様で御座います。ですが、目覚めた5名には変化は認められません。未だに昏睡状態の方々も、4時20分の時点ではこの様な異常はありませんでした。」
「リザードマンだわ」
「よろしい。慎重に調べなさい」
「承知しました。もう一つご報告が御座います。モニターをご覧下さい」
「随分と大きいわね」
そこには森の途中で突然消えている道路と、その先にいる大きな白いオオカミが写っていた。
「宮川さんの見解を聞いても良いかしら。」
「驚異レベルは測定不能です。幸い戦闘には至っておりませんので、今はこれ以上の接触は避けるべきと考えております。」
「良いでしょう」
常識を超えたこの事態に、情報を集めれば集めるだけ理解が追いつかない。
「お茶でも飲みましょう」
サラはほんの一時だけ、思考を手放すことにしたのだった。




