癒やされる心
宮川はこの恵みの大地に来れたことを本心から嬉しく思っていた。
彼の家に伝わる秘伝。祖先の龍が生まれし土地であったからだ。
その地を踏むことは、もう理屈ではなく、魂からの渇望であった。
数千年に及ぶトカゲとの争いも、今となっては細事にさえ感じるほどの体験の連続である。腕に多少の覚えのあった自分が、ここではちっぽけな存在である事。その事実の何と素晴らしいことか。
正に神々の地に辿り着いたのだと、そう思えるのだ。
部下で娘のように思い、育て上げてきた柳。彼女のここでの成長ぶりも、宮川の心に火を付けた。
彼女はこの地に来て数日のうちに、転移術と飛行魔法を身に着け、更にその成長を続けている。
師匠と弟子の立場が完全に逆転してしまったが、宮川は内心でとても喜んでいる。
最近良く修練に誘われるのも、嬉しい事であった。
戦いと謀略にまみれた宮川の人生は今、穏やかで満ち足りている。
「師匠?多分ですけど、修練って習得するんじゃ無くて、忘れてた事を思い出すんだと思うんです。」
「どうして、そう思うんですか?」
「フレアさんに背中に乗せてもらったとき、心が在るべき姿を思い出した様な、言葉で良く説明出来ないけど、私は飛べるって思ったんですよ。」
「なるほど。」
「だから、教わったわけじゃないんです。」
「人の子供が立ち上がって歩くように。鳥の雛が巣立って飛び立つように。ですね?」
「そうですそうです。」
「自分が何者で在るかが大切なのですね。」
「でも、師匠は真面目過ぎですよ。多分、そこが一番のブレーキになってますって!」
「………」
「たまにはデートしてくださいね。」
そんな事を言いながら、宮川の腕に絡み付いて来るさくら。
「ふふっ、たまには良いでしょう」
傍から見ると、微笑ましい光景であろうと宮川は思った。
それが自分とさくらである事が、堪らなく宮川の心を満たして行くのだった。




