原初の力
「さて、行こうか」
カイ達は腹ごしらえを終えて、坊の池に向かった。
「あっ、爺さん!」
『皆揃っておるのう。坊も無事で良かったわい。』
「お爺さん。後は任せて下さい」
『ほっほっほ。余り年寄りを使うもんじゃ無いぞ?』
カイはいつもの岩の上に立ち、恵みの神様に祈りを捧げる。
「在るがままに…在れ」
すると、池の水面から霧が立ち昇り、眩しく輝き始めた。
祈りが終わると。水の濁りは消え、元の清らかな青い光を放ち始める。
『原初の力ね…』
『あれがカイ本来の力じゃろうな』
『カイは源の龍であったか。』
カイはシロに向き直り、
「シロ。あれを」
シロは胸元から、祠で授かった首飾りを取り出す。
『あの日から肌身放さず身に着けていたわ。』
カイは頷いて受け取った。
「レイヤ。短刀を貸してもらえるかい?」
「…はい」
レイヤからは短刀を受け取った。
「始めるよ。」
カイは短刀を抜き、静かに横に薙
ぐ。
すると、空間がズレて口を開いた。
そして首飾りを掲げる。
「さあ、おいで」
すると…空間の裂け目から、黒い霧が現れた。
それはゆらゆらと暫く漂って居たが、やがて自分の居場所を見つけたかのように、首飾りへと吸い込まれていった。
皆はその様子をただ見ていたが、身動きひとつ出来なかった。
カイが何でも無い様にやっている一つひとつの事に、天と地を震わす程の力を感じていたのだ。
それ程、圧倒的であった。その相手が闇の種であったとしても。
「よしよし。」
首飾りを胸元に引き寄せて、まるで飼い犬を愛でる様に呟く。
「恵みの神様。お返し致します。」
再び両手で高く首飾りを掲げると、それは光の粒になって天に昇っていった。
カイは皆に振り返り、
「やっと終わったね。さあ、帰ろう?」
本当に何でも無い様に、そう言ったのだった。




