マーサの宿
「レイヤさ、この雛見ててよ。俺達でお婆さん探してくるからさ」
「分かったわ、ここで待ってるわね。」
カイはそおっとレイヤに雛を渡す。
雛はレイヤの手の中でうずくまり、落ち着いたのか眠ってしまった。
「よし、行ってくるね」
カイと坊はお婆さんを探しに出たが、手掛かりは何もない。
「フレアは世界樹の根元って言ってたな」
「根元のお婆ちゃんに羽根を渡せと言ってたぞ」
「羽根か…坊、羽根だしてみて」
「わかった」
坊が羽を出してみると、淡い炎の色に光る。そしてその羽根はある一定の方向を向いていた。
これはもしかしたら、方位磁石かもしれない。
「坊、この羽根の指す方へ行ってみよう」
そうやって羽根が指す方へと進んで行くと、人がやっと通れる位の穴にたどり着いた。羽根はどうやら穴の奥を指しているらしい。
「カイ、どうする?」
「レイヤも呼んで作戦を決めよう」
早速水鏡でレイヤを呼んだ。
「カイ、この子かわいいのよ。きっと私の事をママだと思ってるんだわ」
レイヤはもう雛にメロメロだ。
坊も雛を抱きたくて仕方がない様子だ。
結局、話し合いの末、俺とレイヤが穴の中に入ることになった。
羽根はレイヤが持ち、カイはその後に続く。
羽根の光で、穴の中でもある程度見えるようだ。
緩やかな下り道の後、木製の登り階段に変わって、やがて一つの明かりが見えてくる。
近付いて見ると、扉があり『マーサの宿』と書かれていた。
「きっとここだわね」
「うん。こんにちは!すいませーん!」
すると、中から
『はいはい、どうぞ、入っとくれ』
ここの壁は、全てが本棚になっていて沢山の本が並び、まるで本屋さんに来たようであった。
その奥の椅子には、丸いメガネが印象的なお婆さんが、座って本を読んでいた。
「こんにちは。私はレイヤと言います彼はカイ。共に旅をしています。」
「俺達は、遠い遠い湖まで旅をしている途中なんです。」
「フレアさんにこの羽根を木の根元に居るお婆さんに渡すように言われて来ました。」
「なるほどね。まあお座りなさい」
俺達はお婆さんの向かいの椅子に腰掛けた。
「フレアの羽根とは珍しいわね。」
「俺達はこの場所まで行きたいんです。」
俺は手帳の最後のページを開いて地図を見せた。
「そうだね、先ずはここの説明をしましょう。」
お婆さんは立ち上がって、部屋の奥のドアを開けた。
「マーサの宿へ、ようこそ。」
そこは、小さなホテルのフロントの内側だった。
その先には玄関?がある。
「勝手口から現れるお客様は、貴方達が始めてよ?」
お婆さんは可笑しそうに笑った。
「貴女がマーサさんですか。」
「そうですよ。よろしくね。」
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俺は一度坊を呼びに戻り、三人で話を聞くことにした。
マーサは坊が大事そうにしている雛を見ると、
「これに入れておやり」
と言って、小さなカゴをくれた。
レイヤは雛を見つけた時の事をマーサに話し、
「この子をどうしたら良いかしら?」
「貴方達に縁のあるものでしょう。大切に育てると良いですよ。」
と言われたので、皆は大喜びだ。それだけ雛を大好きになっていた。
「フレアの羽根だけれども、少し加工しなければならないわ。」
「この羽根はね、とても便利なものだけど、その分使い方を誤るととても危険な物なのよ」
「俺達は、その羽根に導かれてここを見つけました。」
「そうね。簡単に言うとこの羽根は、持ち主の『願い』をかなえる羽根なの。」
「良いものに思えるけど、どうして危険なんですか?」
「そうね、『願い』を引き寄せる事もあれば、貴方達が引き寄せられる事もあるという事。貴方達の力量に関係なくね。分かるわね?」
「それは恐いですね。」
「明日またいらっしゃい。それまでには仕上げておくからね。」
「そうだわ、シロ様のお使いで蜂蜜を貰いに来たのだけれども」
「あら、そうなの?ちょっと待っててね」
「シロさんのお気に入りはこれね。はいどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「では、また明日来ます」
今度は正面玄関から外に出た。
「さあ、早く帰って、シロさんと雪乃さんにこの子を紹介しましょう?」
「そうだな!何食うのかな?」
などと話しながら、水鏡を潜って帰宅するのだった。




