【ファーストコンタクト】
ホテルは静かであった。
昨夜のセレモニーに出席した人達は招待された客人も多くいる。その人達の殆どが、カクテルパーティーに参加後、ここに宿泊しているはずだった。だが、一階のロビーに宿泊客の姿はない。まだ早朝であるが、これだけの異常事態にしてはあり得ない状況だった。
唯一フロントで支配人の坂本と執事の宮川が、数人のスタッフからの報告を聞いているだけであった。
ホテルは地下に大浴場。
1階がロビーにフロント。それと軽食スペース。
2階にレストランが3軒。
3階から9階が宿泊ルーム。
10階スイートルーム
11階ワンフロアがオーナールームとなっている。
報告を終えたスタッフは新たな指示を受け、散って行った。
「宿泊客は全て昏睡しているということか。声をかけても反応がないと。薬でも盛られたか。」
「坂本支配人、奇妙なのは全員ベットで寝ている事だ。まるでそこに寝かされた様に。」
「今はもっと情報を集めよう。外の状況も気になる」
ホテルシリウスはリゾートホテルである。しかし実際には従業員の半数がローズ家の、それも坂本が直接指揮している組織で構成され、全員がサラ達を護衛出来る実力を持つ。ここは、彼女達のシェルターなのだ。
外はまだ大粒の雪が降っていた。雪が大粒であるので、そこまで気温は下がっていないはずだ。精々マイナス10度前後だろう。
それでも視界を奪われ、積雪は腰の高さまでになっている。ホテルの外周を調査している部隊は消耗が激しかった。
そのうちの一つ、街へと続く道路を調査している部隊は、道沿いに建てられている反射板だけを頼りに進んでいた。
「隊長、見てくれ」
「ああ、見えてるよ」
そこにある筈の道が森の中で消えていた。
「撃つなよ。ゆっくり下がれ。目を逸らすんじゃないぞ。ゆっくりだ。」
消えた道の先に、真っ白なオオカミが此方を見つめている。何よりその大きさはサラブレッド程もあった。
「良いぞ、銃を下ろしてそのまま下がれ。ゆっくりだ」
十分に距離を取り、カーブを曲がってオオカミが見えなくなっても、暫く息を潜めて耳を澄ませ様子を見る。
「良し、殿は俺がやる。ホテルに戻るぞ」
「了解」
( あれは、なんだ? )
次第に降る雪も小雪に変わり、辺りも少し明るくなって来た。ようやく朝がやって来たのだった。




