いにしえの氏族
タンタンタン。
タンタンタン。
『誰かしら?』
『今日は客が多いのう』
『はい、ただいま』
「夜分恐れ入ります。突然の訪問をお許し下さい。」
『あら、宮川さんでしたね。どうぞお入りになって。』
「ありがとう御座います。失礼致します。」
宮川さん?俺はその名が気になって顔を出した。
「やはりこちらにおいででしたか。」
宮川さんは、いきなり俺に向かって跪いた。
「私は宮川龍二と申します。お館様にお目にかかれて、光栄に御座います。」
いきなり目の前で泣き出した。
『お主ら、知り合いか?』
取り敢えず、何とか座敷に上がってもらって話を聞くことにした。
宮川は感情を飲み込むように、静かに語りだした。
「私達氏族には、代々秘密にして守り伝えて来た口伝があります。」
そう言うと上着を脱ぎ始めた。
「我等は龍に祖先を持ち、龍に仕えることを使命とする者です。」
宮川の胸には、俺とよく似たアザがあった。
「いにしえより続くトカゲとの争いの中、現在は数を減らしてしまいましたが、まさかお館様にお会い出来る日が来るとは、思っておりませんでした。」
「失礼を承知の上、お名前をお聞かせ願えませんでしょうか。」
「構いませんよ。宮川 楷です」
「おお、ありがとう御座います。」
−−−−−−−−−−−−−−−
宮川はここに来た経緯を俺に語ってくれた。
リゾートホテルにいた宮川は、俺達と共にこの世界にやって来た事。今は亡き達也との関係。現在のホテルの状況など非常に簡潔に分かりやすく説明してくれた。
どうやら、シロと雪乃はリゾートホテルの皆も助けてくれていたらしい。
一通り話し終えると、宮川は夜遅くまで申し訳ないと、
「近々、またお会い出来るでしょう」
そう言ってホテルに帰って行った。
『これは、いよいよアザの影響じゃな』
『そうね、宮川さんがここに辿り着ける程に強くなっているわね』
「俺は、…良く分からないよ。」
「それより、シロ、雪乃。ホテルの皆を助けてくれてありがとう」
『本当はもう少し後で引き合せようと思っておったのじゃ。』
『そうね。鏡面界へ帰る人達は、この地と余り関わるべきではないから』
「宮川さんは残るのかな。」
『どうじゃろうな。意外と不器用な奴じゃ、分からんの。』
それにしても、鏡面界でもトカゲと戦う人達、今も戦っている人達が居るんだな。
俺は自分ではどうしようもない流れの中にいる事に気付いた。そしてそれは決して嫌なものでは無いということも。
シロは黙って、そんな俺の手を握ってくれていた。




