【揺れる思い】
「柳ちゃんの番よ」
「うーん。これかな?」
二人はジジ抜きをしていた。
最初はババ抜きをしていたのだが、柳は顔に出やすく激弱なのを見かねて、宮川が教えてくれた遊び方だ。カードからジョーカーとランダムに1枚のカードを除き、その後のルールはババ抜きと同じである。
最後までどの札が残るか分からないので、完全に運まかせのゲームだ。
「また負けた。」
「柳ちゃん、そこまで負け続けるのは才能だわ。」
「あと1回だけやりましょう」
「フフッ、良いわよ?今度こそ勝ってね!」
柳はレイヤと共にこの地に残ると決めていた。
サラには宮川がいるから安心だ。
柳の師匠は、意外にも宮川であった。
柳の知る限りの最強は、亡くなった旦那様。その次が宮川だった。
二人とも人間じゃない何かだと、柳は思っている。普通に素手で岩とか砕けるし、水の上とか歩いてるし。
プロレスラーなど、デコピンで瞬殺出来るだろう。
「…負けました。」
「もう…元気出して。柳ちゃんが勝つほうが怖いから」
「…レイヤちゃん…ひどい」
普段は二人は同じ年の友達である。幼い頃から、家族の様に暮らしてきたのだ。
「そろそろ鍛錬しましょうか」
「今度こそ負けませんから!」
「あら、元気になったわね?」
そんな二人を窓際で見ているクロ。尻尾をフリフリしてご機嫌なようだ。
ちなみにクロも移住組である。
しばらく二人の鍛錬を見ていたが、大きなあくびを一つして、お気に入りのソファーで眠ってしまった。
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「ママ、お昼にしましょう?」
レイヤは書斎のサラに声を掛けた。パソコンで仕事をしているかと思えば、昔の家族写真を見ていたようだ。
「ママ…ママもここに残りましょう?」
レイヤは決して言うまいと思っていた言葉を、口にしてしまった。
「…レイヤ」
サラは何も言葉に出来なかった。
サラの本心など言うまでもない。
帰る決心をしたのは、帰る理由のある部下たちのためである。
「お昼にしましょう」
「うん。」
あの人ならどうしたかしら。明日からは元の世界へ帰る通路に入るのだ。サラの心は重かった。




