【トカゲの欲しいもの】
水鏡の前には195名の宿泊客であるトカゲが集められた。
そこにシロが連れてきた佐藤さん夫婦も加えられる。
拘束具が外され、並べて寝かされている様に、サラは本能的に嫌悪感を感じた。
『サラ。皆さんは顔を合せないほうが良いでしょう。』
「わかったわ。坂本隊長、皆を下がらせて下さい。」
「了解しました」
坂本は的確に指示を出し、人払いする。
「では、私達も下がりましょう。」
サラも、執事の宮川と坂本隊長と共にこの場を離れる。
そこに雪乃が現れた。
『シロ様、また奴が来るのじゃろう?』
『そうでしょうね。最近、更に権力を増している様ですから』
『カイがもう少し頼りになればのう』
『 !!…余り巻き込みたくないわ……』
『やれやれ、どうやらお出ましのようじゃ。』
水鏡を通って身なりの良い初老の男が、現れた。
「ごきげんよう。シロ様。雪乃様。本日はお招き頂きありがとう御座います。」
『馴れ合うつもりはありませんよ。契約通り彼等を引き取って頂きましょう。』
「なかなかお会いする機会も無いわけですし、貴女方にも有意義な時となるかも知れませんよ?」
すぅっと、周囲の温度が下がっていく。雪乃は静かに口を開く
『そうじゃな。ゆっくりしていくと良い』
更にグングンと気温が下がる。
男は気に留めた様子もなく
「シロ様、貴女に結婚の申入れをしているのをお忘れですかな?」
『その様な戯言に取り合うつもりはありません』
更に気温は下がっていく。既に辺りは真っ白く凍り付いている。
「まあ今日は別の用件でお伺いしていますので、残念ですがまた日を改めましょう。」
「さあ、皆さん。行きますよ。」
男がそう言うと、トカゲ達はぎこちなく立ち上がり、水鏡を潜って消えて行く。
最後に残った男は、
「達也さんが居なくなって、さぞかし寂しいでしょうに。」
と薄ら笑いを浮かべながら、水鏡の向こうへと消えて行った。
『あ彼奴ら全員、突然消えてなくなったりしないかのう。』
『フフッ。あの人、自分の事を恰好良い男だと思っているらしいわよ』
『救えんのう』
シロと雪乃は顔を合せて笑うのだった。




