ヒロの想い
「シイさん、トカゲと友好的な関係にはなれないのでしょうか。ヒロはアキというトカゲと結婚の約束をしたんです。」
「それはヒロが決めるべき事だ。彼が望むか望まないか、それだけだな。」
「彼はアキとの結婚を望んでいます。」
「それが答えだろう。お前達は物事を複雑にしたいようだが、トカゲの影響かもしれないな。俺達の考え方のほうが不自然に感じるだろう。」
「そんな事は…」
「支配する者が居れば、支配される者が居なければならない。支配されたい者が居れば、支配したい者が居なければならない。簡単なことだ。」
「シイさん、ヒロと話をしようと思います。」
「それが良いだろう。」
シイは大きく頷いて、初めて笑ってみせた。野獣の様な笑い方だ。
「直に雪乃が戻る、それまで待っていろ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
実は俺自身も気持ちを整理する時間が必要だった。
雪乃が言っていた[支配]と[奪う事]。
正に俺達の価値観からそれらを無くしてしまったら、全てが成り立たなくなる。その根本的なルールが間違っていると誰もが知っているが無くせない。それらが無いと生活が成り立たなくなるからだ。
堂々巡りであった。結論は根本、根源からトカゲの社会だということだろう。多少の修正や妥協等ではどうしようもない。
シイさんが言ったとおりだな。それを望むか、望まないか、それだけだな。
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『腹が決まったようじゃな』
「はい。ヒロと話し合います」
雪乃がさっと手を払う
「おい、ヒロ」
「……あぁ、全部聞こえてたぜ。ありがとうな、雪乃さん」
「そうか」
「後悔するかもしれない。でもな、俺は決めたよ。トカゲだろうがアキはアキだ。一緒に生きたい。カイ、」
「ああ」
「すまないな」
「まあ、そんな奴だって知ってたよ」
「改めて、雪乃さん、シイさん。お世話になってます。俺はトカゲの中で生きると決めました。」
『全く難儀な奴じゃのう』
「いずれにしても、今夜は歓迎の宴を催す。村の奴らにも挨拶してやってくれ」
「世話になりっぱなしで申し訳ない。ありがとう」
そうだ、今はヒロとの時を思い切り楽しもう。