【それぞれの決意】
雪乃から告げられた話の全ては、今までの常識とは掛け離れていた。まるでお伽話の世界である。
しかし、全てに納得出来るものであった。サラが執事の宮川と坂本支配人を同席させたので、情報の共有は出来ているが、それぞれが深く考え込んでしまった。
『余り難しく考えるでない。山神様、シロ様の住むこの山では奴等は擬態出来んからな。悪さも仕様がない。眠らされておるしの。』
『お主らが鏡面界に戻る方法も教えたではないか。どうするかは、お主ら次第じゃがな。』
『さて、私は戻るが、ほれ』
雪乃が手を振ると一匹の烏丸が現れた。
『用があれば此奴を通して話しかけるとよい。』
ひゅっと風が吹いて雪乃は消えた。
宮川と坂本は初めて見る魔法の様な現象に目を見開いている。
「柳、先程言い渡したお前の減給は取り消しだ」
「!ありがとうございます!」
「参ったな」
皆、自分自身で情報を飲み込む為に、それぞれの自室に戻る事にする。安易な答を出すべきではなかった。
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サラもレイヤと別の部屋で思考の整理をしている。
感情面では、長年我々を狙い続けて、夫を殺した組織がトカゲ達だと判明した訳だから、復讐したい気持ちもある。しかし、それが全くの意味がない事だということも理解していた。その様な感情こそがトカゲ達の好物だということもあるが、復讐する私達の姿を、死んだ夫は喜ばないだろう。
取れる選択肢はそれ程多くは無かった。
「ここで生きて行くか、それとも元の世界に帰るか、ね」
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「クロ?パパはもういないの?私も話がしたかったわ」
クロは尻尾をフリフリしながら行ってしまった。
「もう…。」
素朴な鞘に収められた形見の短刀を抜いてみる。青く透明な刀身が淡く光っていた。
「あの夜の光のようね」
レイヤはもう決めていた。
「私はここに残るわ。」
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坂本支配人の自室はまるで武器庫のようであった。趣味と実益を兼ねていて、今までの人生で彼のことを理解出来る女性は現れていなかった。要するに元の世界に未練はない。
だが、彼に従う部下達には、帰るべき場所がある。彼の答えも既に決まっていた。
「部下たちだけは返してやりたいな。だが、お嬢様の決定には従う」
それが坂本の答だった。
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執事の宮川に自室はない。誰も宮川がどの様な私生活を送っているのか知らないだろう。何時もそこにいて、必要な時に現れ、いつの間にか居なくなっている。もう都市伝説である。執事室が自室なのかもしれないが、生活用品等は置かれていない。
そんな宮川は、ロビーの窓から空を見上げたまま、何故か涙を流していたのだった。
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私は、柳 さくら。
私も小さい時に旦那様に拾われて救われた。シロ様と同じだった。亡くなってしまった今でも、この命ある限り、お嬢様とレイヤ様にお仕えするつもりだ。
まだまだ未熟ものだけれども、旦那様に代わって必ずお二人を守り抜く。例えそれがどんな場所であろうとも。
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そして夜が来た。
それぞれの想いを聞くために、サラは皆をオーナールームに集めたのだった。