長いお昼寝
『この者達に、再び命の灯火を与えん』
あこがカイと坊に手をかざすと、柔らかな光に包まれ目を覚ました。
「……あらら、死んでたのね」
「ほわ〜あったか〜い」
「ふー!よく寝たぜ!」
『フフフッ、ようこそ。カイ、レイヤ。待ってたのよ?』
「……完璧な飴と鞭だわ」
『そして、お帰りなさい、ポチ』
「……ガチだわ」
「あはは!俺にはロキって名前があるんだぜ!レイヤ、カイ。俺が『歪み』だよ。」
「だよね。そうだと思ってたよ。」
「ええ。『調和』は女の子ですもの」
「あこちゃんにカイを連れてくるように頼まれていたんだよ。ここに来るまでは、記憶は封印されてたんだ。」
『転生させたのだから、しょうがないのよ。ロキも楽しそうだったじゃない。』
「ああ!すっげー楽しかったぞ!」
『フフフッ。知ってるわよ』
「あこちゃん、『調和』はどこだい?」
「私も知りたいわ」
『…そうね。行きましょうか。』
カイ達は、あこちゃんに連れられて祠の後ろの魔法陣に入って行った。
−−−−−−−−−−−−−−−
そこは深い深い森の中だった。
高い木々の隙間から僅かに陽の光が差し込んでいるが、周囲は薄暗く、静かだ。
『こっちよ』
下草もあまり生えていないが、大きな木の根が地表に競り上がり、道なども無かった。
しかし、ここの地面には何度も通った跡がついている。
薄暗い光の中、苔むした岩を背にして『調和』は坐禅を組んでいた。
「おい。これ生きてるのか?」
全身に蔦が絡み、自らも大地に根付いているようにさえ見える。
『私達に、人間の様な死は無いでしょう?存在が恵みの大地に拡がっている状態ね。』
「私達が来た事は分かっているかしら?」
『どうかな?この状態では時間軸が違うのよ。千年なんてあっという間だわ。』
カイは近寄って、絡み付いた草や蔦を取り除いた。
顔を拭いて、頭を撫ぜる。
「寂しい思いをさせてごめんな」
レイヤも膝をつき、手を取って顔を覗き込む。
「私達、貴女に酷い事をしてしまったわ。本当にごめんなさい。」
そう言って、そのまま抱きしめる。
「調和」は当時と変わらず、幼い姿のままであった。
それが余計に、あの過ちを鮮明に思い起こさせる。
『全く、どうかしていたわ。『宇宙』の意図があったとしても、可哀そうな事をしてしまったわ。それでもね、この子は皆んなを心配していた。ずっと一人で頑張っていたわ。』
「俺も一人ぼっちだった時、友達になってくれたんだ。」
カイは『龍の書』を取り出して、『調和』の前に置く。
「この本を預かってくれてたんだろ?ありがとうな。」
『皆んな私の事を心配してたけど、自分では自己犠牲したような覚えは無いのよ?テラは私達の滅びを何度も体験した様だけど、滅びさえ私には自然な事と受け入れられるの』
「その気持ちは、良く分かるよ。悲しいけれども、ね。」
「この世界は、もう私達の手から離れているわ。確かに私達が創り出したものだけど、その私達も既にこの世界の一部よ。」
『フフフッ』
「お!起きたか?」
『マリカ?』
『……おはよ』
青白かった頬に色味がさして、『調和』は薄く目を開けた。