託されたもの
その日の夜。カイとレイヤは坊の池の岩で並んで座っていた。
肌寒く、吐く息も白いほどであったが、実は龍となった二人は、既に気温差等の影響を全く受け無くなっていた。
「私達、どうして今、人として生きているのかしら?」
「うん。俺もね、それが不思議なんだ。とっくの間に完全な龍であったはずだからね。」
「今更だけれど、ホテル周辺ごと異世界転移させたのは誰かしらね?」
「それが出来るのは、俺か、レイヤか、『調和』又は『歪み』の四人だよね。」
「それがね、私にも出来そうだと思っていたのだけれど、無理だわ。」
「そうか。」
「それに『調和』の力は直接働き掛ける様な力では無いはずよ。」
「そうすると残りは、俺か『歪み』か」
「会えないかしらね?『歪み』に。」
「祠の魔法陣が繋がってるんだろ?そこまで行けばいいさ。」
「坊に相談してみる?」
「本当はもっとゆっくり進みたかったけど、そうもいかないかな?」
「そうなのよね。私も旅を楽しみたい気持ちはあったんだけど、本が現れたわ。私達の旅はここまでよ。」
「やっぱり、…そうか。」
「テラ、『次元』は、この先に何を観ているのかしらね。教えてはくれないでしょうけど、気になるわ。」
「それが必要ならば、現れてくれるだろ?今はまだその時ではないのさ。」
「皆んなには、話しておく?」
「………先ずは祠まで行ってみよう。それからだね。」
カイはその姿を龍に変え、空へと高く高く昇って行った。
「カイはまだ人として生きたいわよね。『愛』と同じ『家族』が沢山出来たんですもの。あの頃の私達とはもう違うのよ?きっと、『調和』のお陰だわ。」
レイヤは懐から短刀を取り出し、ゆっくりと抜いた。
「『愛』。貴女が私達に託したものは、実ったのかしらね。」
坊の池の光に呼応する様に、レイヤの短刀も脈打つように光を放っていた。