旅立ち
次の日の朝。
ヒロとアキも、さくら達を見送るためにやって来た。
「これはお守りよ。たまにはかんちゃんの顔を見に帰ってきてね!」
「ええ。ありがとう!」
『さくらちゃん、これ。』
ぴーちゃんとクロも、袋に入った何かを手渡した。
「開けてもいい?」
『うん!』
「これは、何かの種かしら?」
『私の大好きな仙桃の種よ!さくらちゃんは農家さんになるんでしょう?』
「まあ!そんな貴重な種をもらっても良いの?」
『さくらちゃんの赤ちゃんにも食べさせてあげて!』
「フフフッ。ぴーちゃん、クロ、ありがとう。」
「ソルにはこれよ。ユーパロ村の付近で採れる野菜の種よ。恵みの神様の祝福を受けたものよ。きっと役に立つわ。」
「マーサ。ありがとう。」
「お館様、皆様。行って参ります。」
「決して無理をせぬように、この回廊を上手く使って下さい。」
回廊の出口は、宮川家の所有している北海道の山中に繋げてある。当面出入りするには問題ないはずだ。
「ありがとうございます」
「行ってきまーす!」
「行って来ます。」
そして三人は回廊へと消えて行った。
「いいなあ!俺も行ってみたい!」
『フフフッ、坊は物好きじゃな。』
『トカゲが沢山居るわよ?』
「カイ!今度トカゲに会いに行こうぜ!」
「あはは!坊は皆んな友達だからな!」
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恵みのダンジョンでも、この時期の早朝は底冷えする。
冷え切った體を温めようと、シロが皆んなに甘酒を振舞ってくれた。
「ちょといいかしら?」
『あら。サラ、何かしら?』
「私、ここで宿場をやりたいわ。そのうち鏡面界から渡って来る人も出てくると思うの。その人達の手助けがしたいのよ。」
『それは良いの。部屋数も問題無いじゃろ。』
『フフフッ。楽しそうね。私も賛成だわ。』
『それでは、宿の名を決めなければなりませんね?』
「北の宿とか、いいよね!」
『はい、カイは甘酒でも飲んでいてね?』
『そうじゃよ?ほれ、ヒロの隣が空いておる。』
「え?いや、名前考えようよ…」
その後、女子会メンバーによって宿の名は決められた。
「結びの旅館よ」
「かっこいいな!」
『私達の温泉旅館ね』
皆の中で、カクさんが一番喜んでいるようだ。
『フフフッ。カクさん嬉しそうね?』
『ええ。何だかワクワクします。夢溢れる旅人達が、恵みの大地で最初に泊まる宿ですもの。』
「そうよ。私も鏡面界の事を色々聞いてみたいの。」
『フフッ、成る程。マーサの興味はそこなんじゃな。』
「マーサらしいわね!」
「最初のお客は、ヒロとアキとかんちゃんだな!」
「まあ!光栄だわ!」
『いらっしゃいませ。ようこそ結び旅館へ』
「かんちゃん温泉入れるかな?」
『うちの温泉は大丈夫よ。』
見習いママ達も、かんちゃんのお泊りに嬉しそうだ。
カイはこの光景を見て、『幸せ』とはこれとは何が違うのだろうと、考えていた。
ふと横を見ると、そこには珍しく難しい顔で考え込むレイヤが居たのだった。