鏡面界
「シイという。よろしくな。」
「カイです。よろしくお願いします。」
シイはロクよりも大柄でガッシリとした身体つきの男だった。年の頃はカイと同じ位、30歳少し手前位であろうか。
案内されたのは、ババ様の家を囲んでいる家の内のひとつ。玄関前に槍が数本立て掛けてあり、中に入ると弓や網などが壁に掛けてある。
「ここが俺の家だ。この部屋を二人で使ってくれ」
座敷になっている暖かな部屋でヒロを寝かす。シイは囲炉裏の前に座り、俺と雪乃にも座る様に促す。
『さてさて、ヒロをどうしようかの。術を解いても良いが、先ずはカイにトカゲについて少し話さねばな』
「お願いします」
シイは黙ったまま、カイから目を離さない。
『トカゲ達はこの地の生命ではない。遥か彼方の星から来たのじゃ。我等の道理や、繋がりからは外れておる』
『奴等がこの地に住み着くのは構わんのじゃ。我等の豊かな大地は何者も拒みはせん。じゃがのう、』
『奴等は奪う事に悦を感じ、支配する事に存在の価値を置いておるのじゃ。』
『そこにある恵みを頂き、共に生きる我等とは真逆、まさに鏡面じゃな』
此処とは真逆の鏡面界、雪乃達とは真逆のトカゲ達。カイは気付いてしまった。
『フフッ、そうじゃ。お主のいた世界とはトカゲに支配されておるのじゃよ』
雪乃は哀れむ様な眼差しでカイを、そしてヒロを見るのだった。
カイは暫く何も言葉に出来ずに、囲炉裏の火を見つめていた。