恵みの神様と龍 後編
「カクさん?この絵はカクさんが描いたの?」
家の玄関を入って直ぐに目に入る所に、大きな絵が掛けられてあった。
『ええ。水墨画ですけど、趣味で描いているものを坊が飾ってくれたの。』
実は、カイは家を建てたのは良いが、インテリア等のセンスは絶望的であった。
それが女子会の議題に上がり問題視された結果、趣味の悪いものはカイの知らないうちに撤去されて、洗練された空間へと生まれ変わって行っている。
『今夜はお客様がいらっしゃるのでしょう?シロさんも雪乃さんも、張り切ってお料理しているわ。』
「ツキヨは部屋かい?」
『ええ。ぴーちゃんとクロと一緒にお昼寝してるわよ。』
「見に行こうよ」
『うふふ、そうね』
カクさんの部屋には、ババ様とサラも来ていた。どうやら赤ちゃん達の服を作っているようだった。
「うわぁ、可愛い服だね!」
サラはスッキリとしたデザインが好きなようで、色使いもナチュラルな物が好みのようだ。
ババ様はユーパロ村の皆が着ている柄の入った、民族衣装を思わせるデザインである。
「ツキヨはよく寝ているね。大きくなったよね。」
生まれた時は、手のひらに乗るほどの大きさだったが、もう両手で抱かなければいけない程に育っている。ぷにぷにしたほっぺが可愛いい。
「カイもお父さんの自覚が出て来たかしら?」
「もちろんさ。ミケには赤点だって言われちゃったけどね。」
「ミケは凄いわよ?昼間はかんちゃんのお世話をして、帰って来てからはツキヨのお世話もしてるんですもの。」
「そっかぁ。それじゃ、赤点出されてもしょうがないな。」
ババ様とサラのお腹を撫でながら、優しい眼差しで赤ちゃんに話しかける姿は、普段のカイとは違って頼り甲斐を感じる。
「カイ?ちょっといいかしら?」
レイヤが廊下から声を掛けてきた。
「ん?どうしたんだい?」
「さくらちゃん達の事で相談があるのよ。庭まで来てもらえるかしら。」
「わかった、今行くよ。」
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「宮川さんから話は聞いているわね?」
「うん。鏡面界へと帰るらしいね。レイヤがゲートを開けるんだよね?」
「ええ。それで出来ればこの裏庭をゲートを開ける場所にしたいのよ。」
「うん。俺もそれが良いと思っていたんだ。シロと雪乃にも相談しよう。呼んで来るよ。」
カイはシロと雪乃にも、さくらと宮川さんが鏡面界へと渡る事を伝え、ゲートを裏庭に設置したいと伝えた。
「俺はこのゲートをずっと残しておきたいんだ。」
『なるほどのう。他の場所よりは安全だろうが、子供達に危険ではないか?』
『そうね、私達の結界では不安だわ』
「俺は結界ではなくて、繋がりを辿る道を作ろうと思うんだ。そうすれば、トカゲは渡って来れない。」
『繋がりを辿る回廊ね。まるでこのダンジョンの様だわ。』
「そう。正にダンジョンの仕組みそのものだよ。この恵みのダンジョンも、恵みの神様に辿り着く為の回廊だからね。」
「カイはもうそれに気付いていたのね。シロさんと雪乃さんには話したんだけど……」
レイヤは、遠い遠い湖の祠に現れる魔法陣について、カイに説明した。
「理の力で解いたのなら、間違い無いだろうな。」
そこに坊が家の縁側から、
「おーい!龍二達が来たぞ!」
「分かったわ!居間で待っていて!」
『さて、先ずはさくらちゃん達の話を聞きましょう?』
−−−−−−−−−−−−−−−
「凄いお家ね!温泉旅館じゃない!」
さくらは、もう家とは言えないようなカイ達の新居に驚いて、あちこち見て回っていた。
始めて会うカクさんやソルとも、直ぐに仲良くなったようだ。
『さあ、皆んな席に着いて下さいね』
『龍二、さくら。』
雪乃に促され、二人が前に出る。
「皆さんご無沙汰しております。結婚式で盛大にお祝いして頂いたのがつい先日の事の様です。」
「私達はお陰様で新婚旅行で北海道を観て回れました。とても良い思い出と成りました。本当にありがとう御座います。」
「ここで、皆さんにお願いしたい事が御座います。既にお館様にはご相談申し上げておりますが、私達は鏡面界へと渡るつもりです。そして、レイヤ様にゲートを繋げて頂く事と成りました。」
皆んな静かにこの話を聞いている。マーサとソルも、宮川から相談を受けていたのであった。
「ここからは俺から話そう。宮川さん、良いですか?」
「…はい、お館様。お願い致します。」
「先ずは、これから話す事は俺達家族皆んなに関わる事です。どうか、俺を信じて最後まで聞いて欲しい。」
「鏡面界とのゲートは、この家の裏庭に置こうと思います。そして、その通路を恒久的に繋げます。」
「その上で、鏡面界からの侵入される恐れがある為、繋がりを持たない者が通過出来ないように、ダンジョン化した回廊とします。」
「元々、恵みのダンジョンは繋がりを強く成長させ、霊性を高める為にあるのです。それを利用します。」
「このゲートは鏡面界と恵みの大地を繋ぎ、分断化された世界が再び一つとなる為に大切な場所となるでしょう。」
「不安な気持ちはあるだろうけど、どうか俺を信じて欲しい。」
カイはそこ迄話すと、皆に問うように一人ひとりの顔を見る。
「私達は貴方の妻なのよ?疑う事など有るものですか。」
『フフフッ。カイこそ心配性ですね。』
「そうね、もっと私達を頼って良いのよ?」
皆んな頷いて、不安を抱く者は居ないようだ。
「皆様。本当にありがとう御座います。」
「ありがとう御座います。」
さくらと宮川も深く頭を下げた。
「さて、食事の前に私からも報告したい事があるんだよ。」
マーサが『龍の書』を持って前に出る。
「これは『龍の書』。その昔、カイが書いた本なんだ。」
「ええっ!!なんで!?」
一番驚いて居たのは、その著者であるカイだった。




