男の髭とは
ヒロはユーパロ村に来てから髭を剃ったことが無い。
この村の男が皆そうしているからなのだが、困った事にシイやロクの様な立派な髭は生えて来なかった。
「なあ、髭ってどうしたら濃くなるんだ?」
「なんだ?そんな事気にしてたのか?」
シイには本当にどうでも良い事だった。
「俺は、シイみたいな立派な髭に憧れるよ。男らしいじゃないか。」
「待てよ?そういえば龍神様は昔、ヒロの様な髭だった筈だ。」
「それは本当か?」
「ヒロは龍神様に会ったことが無かったな。最近見かけないが、訪ねてみてはどうだ?」
「そうだな、ありがとう、シイ。」
ヒロは、藁にも縋る思いで龍神様を訪ねる事にした。
−−−−−−−−−−−−−−−
「ヒロ!酒なんか持って何処に行くんだ?」
坊とミケだ。
両手に持った籠には沢山のキノコと山菜が入っていたから、アキに頼まれて食材を取りに来ていたのだろう。
「ああ。これから龍神様に会いに行こうと思ってな。これは土産だ。」
「爺さん最近見かけ無いぞ!なんて言ったかな?しつれん?」
「坊!それ言っちゃ駄目なヤツだよ!」
「良くわからんが、家に居るだろう?」
「連れてってやるよ!」
坊は水鏡を出してくれたので、三人で行く事にする。
「おーい!爺さん居るか!?」
「こんにちは!」
何度呼んでも返事は無かった。
「ごめんください!」
「絶対、居るから入ろうぜ!」
坊はいつもの様に、勝手に家の中に入って行った。
「これなんだ!?」
「デカいな。」
「何でトラ柄!?」
なんと、そこには大きなトラ柄のタマゴがあったのだ。
「爺さんが、タマゴになったのか!?」
「これが龍神様なのか?」
「どうやらそうみたいだね。龍って皆んなこうなるのかな?」
「シロと雪乃に聞いてみようぜ!」
−−−−−−−−−−−−−−−
『あらあら。』
『なんと…龍のタマゴとはな。』
ヒロ達の話を聞いたシロと雪乃は、様子を身に来たのだ。
『これは私達にも分からないわ。』
『龍神様には間違いないようじゃな。』
ヒロはがっかりした様子で、ここに来た理由を皆んなに話した。
『フフフッ。男の子って、面白いのね?』
「ヒロの髭は皆んなと違ってかっこいいぞ!」
ミケも何処から出したのか眼鏡を掛けて、
「夢見の里の男も、ヒロの様な髭でしたよ。」
と、眼鏡をクイッとして言った。
「そうか?…そうか。」
『アキは髭が濃い方が良いと言っておるのか?』
「いや、そうじゃないが。寧ろ髭を剃って欲しいようだ。」
『いっその事、剃ってみたらどうじゃ?』
「個性的で良いのではないですか?」
「…そうだな。それもいいか。」
−−−−−−−−−−−−−−−
ユーパロ村に帰ったヒロは、さっそく1年ぶりに髭を剃った。
「シイ。髭を剃ってみたんだ。どうだろう。」
「………ああ。」
シイには、本当にどうでも良い事であった。
ただ、髭の跡が青白く、
『…ちょっと気持ち悪いな…』
とは、口に出さない優しさはあるのだった。