月の花
「ただいま!」
『お帰りなさい。』
「シロ、雪乃、カクさん!花を摘んできたんだ!」
『ほうほう?これはまた、珍しいのう。』
『まあ、素敵なお花ですね。何というお花でしょうか。』
『これは月の花ね?何処で咲いてたのかしら?』
「坊の池に沢山咲いてたんだ。俺も初めて見る花だよ!」
「オレの池にか!?こんな花は見たことないぞ!」
『そうじゃろうな。仙桃と同じ位珍しいんじゃよ?』
「そんなに貴重な花だったの?知らずに切ってしまったよ。」
『この花は意味があって咲くのよ?摘んでも大丈夫だわ。』
『坊の池に咲いているなら、見てみたいわ』
普段自己主張の少ないカクさんは、何かしたいなどと言ったのは初めてだった。
『フフフッ。たまにはカクさんと二人で行ってらっしゃい?』
雪乃も微笑んで頷いている。
「うん!カクさん、行こう!」
カイはカクさんの手を取って、坊の池に向かった。
今日はちょうど満月であった。
月明かりで森が照らされ、坊の池の青い光と合わさって幻想的な光景が広がっている。
「あそこだな!」
『まあ…なんて不思議な…』
いつもの岩を囲む様に、月の花が咲いていた。
白い花びらに内側が青く、形はユリに似た感じの大輪の花が咲き乱れる光景はまるで夢の中のようだ。
カイとカクさんは手を繋いだまま、岩場に腰を下ろす。
今迄カイとは微妙な距離感があったカクさんだが、自然にカイに体を預け、この光景に見入っていた。
カイはカクさんの肩を抱き寄せ、
「この花にはどんな意味が在るんだろうね。」
『カイと二人でこの花を見れただけで、特別だわ』
「そうかい?」
『うふふ、幸せにしてくれるのでしょう?』
「もちろんさ。ずっとそばに居て欲しいんだ!」
そっと寄添い口づけを交わす。
その途端に、月の花から小さな光が立ち上り始めた。
『何かしら?』
それはまるでホタルが一斉に飛び立ったようにフワフワと漂っていたが、やがてその一つがカクさんの手の上に降りてきた。
『まあ!カイ!見て!』
「これは…本当に奇跡だね」
なんとその手の中には、小さな赤ん坊がいるではないか。
「俺達の子供に名をつけよう」
『うふふ。この子は月夜、ツキヨよ。』
「良い名だね!初めまして、ツキヨ。君のお父さんだよ。」
『まあ、今笑ったわ!なんて可愛らしいの』
「ありがとう。カクさん」
『私、本当に幸せだわ』
満月の青い池で寄添い、月の花から子を授かった。
二人とも、この夜の奇跡はいつまでも忘れることは無いだろう。