暗躍者
「ババ様、石採ってきたぞ!」
「早かったね。どれ、ほう、坊らしい清らかな石だね。首飾りにするから、また後でおいで。」
「うん。ありがとう。」
「ババ様、レイヤを探しているのだが、心当たりは無いだろうか。」
「今日は来てないよ。サラの所かも知れないね。サラもつわり中だからね、心配してたよ。」
「そうか、行ってみるよ。ありがとう。」
カイはババ様を抱き寄せて、優しく頭を撫でる。
「ババ様も無理しないでね。」
「うん。また後でね」
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「カイ!良く来てくれたわ!」
サラはカイを見付けるなり走り寄って抱き着いた。
「サラ!走ったりしたら危ないよ!」
「フフフッ、大丈夫よ?ちゃんとスニーカー履いてるもの。」
「カイったら!ママが心配でお見舞いに来たのね!」
レイヤはどこからともなく現れ、
「いや…!」
カイの脇腹を強く強くつねった。
「う、うん!もう心配で駆けつけたんだよ!」
「ありがとう!レイヤも少し大袈裟なのよ?」
「元気そうで安心したよ。さあ、座ろう。」
「赤ちゃんも、パパが来てくれて喜んでるわね!」
レイヤの笑顔は、何処までも眩しかった。
「じゃあ、私はマーサさんに用事があるから行くわね?ごゆっくり、パパ?」
「う、うん。またね」
サラも実は寂しく感じていたのだ。
カイ達の家に会いに行くことは頻繁にしていたのだが、こうして、カイがシリウスに来ることは殆ど無かったからだ。
目的とは違ったが、カイ達は楽しいティータイムを過ごしてユーパロ村に戻って来た。
「カイ、俺はやっぱり今の生活が大事だよ。レベルアップも魅力的だが、子供やアキと過ごす時の方が価値が在りそうだ。」
「そっか。そうだな。サラもあんなに喜んでくれるなんて、思っていなかったよ。」
「人間は時間に限りが在るからな!」
「……そうだな」
ロマンか……愛か……
「愛って…大切にしなきゃな」
「ああ、当たり前に在るものだが、俺にとっては、大切に守らなければ手から零れ落ちそうな、そんな不思議なものだ。」
「ヒロ、ありがとう。俺ももっと真剣に向き合ってみるよ。」
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「あら?カイ。どうしたんだい?」
「マーサ!俺はマーサに寂しい思いをさせてしまっていたと思って…本当にごめん!」
「まあ!嬉しいこと言うようになったね。でも私は別に寂しくなんか無いよ?」
キョトンとした顔でマーサは返した。
「…それでも、これからもっと一緒の時間を大切にしようと思うんだ。迷惑かい?」
「そんなこと無いさ。嬉しいよ」
そう笑って、カイにキスする。
「私には研究があるから、一人の時間も必要なのさ。私よりカクさんを気にしてあげて?あの子はカイに人生を捧げているんだからね?」
「うん。これから行って来るよ。」
カイはマーサを優しく抱きしめ、そう言った。
「フフフッ。カイ?女が他の女の事を話しても、男はそれに乗っては駄目なのよ?」
と言って、カイを奥の部屋へと連れ去ってしまった。
坊は一人残されてしまった。
「…女って難しいんだな!」
「フフフッ。坊も分かって来たかしら?」
突然、坊の後から声がして、坊は飛び上がるほど驚いてしまう。
「うわ!レイヤ!何処に居たんだ?探してたんだぞ!!」
「女はね、追いかけると逃げるものなのよ?」
「…そ、そうなのか?」
「フフフッ。」
意味ありげな笑い声と共に、レイヤは景色に溶ける様に消えてしまった。
「……カイ。…頑張れよ」
坊は、やれやれと言いながら家に帰って行ったのだった。