男子会のはじまり
カイとヒロはエコビレッジのログハウスに来ていた。
「コマイ食うか?」
ヒロはカチカチのコマイの干物を取り出すと、ストーブの火で炙ってくれた。
「ああ、懐かしいな!釣ってきたのか?」
「宮川さんとさくらちゃんな、ダンジョンに潜らずに北海道を旅してるんだよ。これはお土産にもらったんだ。」
「そういや俺は、恵みの大地に来てからダンジョンばっかりだわ。」
「最近は落ち着いたみたいだな。いい顔してるよ」
「あはは!一周回って戻って来た感じだな。」
「あれから、もう一年だ。あっという間だったが、お前も俺も家庭持ちになるなんてな」
「最初は大変だったよな!」
「ああ、今思えば、俺達は幸運だった。結果的に皆んな救われたよ。」
ヒロは自分の首飾りを眺めながら、染みじみ話す。
「俺はさ、龍になった時に、人間の弱さばかりが目に付いたよ。」
「それはそうだろさ」
「だけど、感情を無くして無機質な存在になって行くなんて、自分がだんだん消えて行くのと同じ様な気がしてさ、凄く怖かったんだ。」
「そうだったのか。」
「そんな俺を皆んなが支えて助けてくれた。一番救われたのは、俺かも知れないな!」
「カイ達は遠い遠い湖を目指してるんだろ?その先に何があるんだろうな。」
「きっと、想像も出来ない楽しい冒険が在るんじゃないかな?」
「冒険の先の冒険かよ!」
「ああ。もっと凄い冒険さ。」
「俺達の子供達も、そんな旅に出るんだろうな。」
「ヒロも行くか?楽しいぞ!」
「はは!俺は今が充実しているよ。冒険よりな。」
そこに、沢で自分のヒスイを探してた坊が戻って来た。
「何かいい匂いするな!」
「坊も食うか?コマイっていう魚だ。炙ると美味いんだぞ。」
ヒロは一匹丸ごと坊に渡すと、坊はそれを火で炙り齧り付く。
「食いづらいな!」
「はは!坊、こうやるんだ。」
ヒロは器用に魚を手でほぐし、皮を剥いて見せる。
「おお!美味いぞこれ!」
「そうだろう?」
そう言って笑うヒロは、父親の優しい眼差しをしていた。
「ところで、石は見つかったかい?」
「あったぜ!ほら、綺麗だろ!」
「ほう、これは綺麗な石だな!」
坊は満足げに笑っている。
今年は去年よりも雪が深く積もっている。昨夜からの大粒の雪が、今も深々と降り続いていた。思えば、一年前のあの日も大雪であった。
「ダンジョンに居ると季節の移り変わりが分からなくなるよな。」
「ここの子供達をダンジョンに入れないのはそれが理由らしいぞ。子供の成長には地表の環境が重要らしい。」
「そうなのか?」
「ダンジョンは霊性を上げるが、人間の子供はそれに耐えられる體を育まなければならないと、ババ様に教えられたよ。」
「俺は問題無いぞ!」
「そうだな。大地から産まれた子供達は問題ないよ。ぴーちゃんもそうだな。」
「そうか、クロは少し無理させたかもな」
「そうかもな」
「ダンジョンってさ、鏡面界ではゲームとかラノベでお馴染みだけど、実際潜ると世界旅行みたいなものなんだ。モンスターとかいないしな。ステータス画面とかレベルなんか無いだろう?」
「確かに、そうだな。」
「レイヤがステータスとか言ってたぞ!最近レベルの上がりが悪いってボヤいてたな!」
「「 なんだと!! 」」
「な、なんだよ!そんなに凄いのかレベルって!」
「それはそうさ!あれだよ、坊。男のロマンさ!」
「レベルって、ロマンだったのか!?」
ヒロも頷いている。
「俺にもダンジョンに潜る理由が出来たかもしれんな。」
「でも、ステータスってレイヤにしか分からないんじゃないのか?」
「…理の力か!ずるいな〜、いいな〜レイヤ!」
「なあ、俺達のステータスを教えてもらおうぜ!」
カイ達は、さっそくレイヤを探しに出かける事にした。




