ユーパロ村
「お?雪乃、おかえり。客人か?」
『迷い人のようじゃ。トカゲも数匹…いや、まだ居るの…かなり入り込んだようじゃな』
「カイと言います。こいつはヒロです。」
「迷い人か。俺はロク。」
ほんの5分程歩いた所で出会ったロクは、写真で見たことのあるアイヌの様な出で立ちをしていた。髭を伸ばして厳つい印象の男であった。
「迷い人に、トカゲか。式神を遣るか」
『既に遣わしておるよ。』
「そうか。では一度村に戻ろう」
小さな沢を30分位下ると、少し開けた場所に出た。そこには10軒ほどの茅葺きの家が円形になっている集落が見える。
「あれが俺達の村だ」
『ユーパロというが、聞いたことはあるじゃろう?』
「…はい」
『お主らの世界はここの世界の鏡面界じゃ。我等は干渉する事は良しとせぬが、トカゲは何かと物好きでな。お主の世界に行き来しとるようじゃ。』
「…鏡面界…並行世界か」
『奴らは狡猾で普段は擬態しておるが、山神様の領域では無理なようじゃな。』
やがて村に近付くと子供達がワラワラと集まって来て、
「迷い人だー!」
「わたし、初めて見るわ」
「抱っこして〜」
『これこれ、騒ぐでない。これからババ様の所に行くでの。』
「雪乃ちゃんだけいいな〜。」
「後で皆にも紹介しよう。向こうで遊んでいなさい」
「ロク、約束だよ!皆んな行こう!」
他の大人たちも遠巻きにカイ達を見ていたが声をかけて来る人はいなかった。やはり皆ロクと同じ様な服装をしている。
村の中央付近の少し大き目の家が目的地らしい。
「ババ様。迷い人を連れて来たぞ」
「おはいり」
色々なハーブや香辛料等の香りが漂っている。玄関を潜ると、間仕切りの無い広々とした家であった。中央までが土間になっていて奥と右側が座敷になっていた。
「はじめまして。カイと言います。コイツはヒロ。貴方達のいう鏡面界から来ました。」
「歓迎しますよ、カイそしてヒロ」
「ありがとうございます」
カイは深々と頭を下げた。
『ババ様、良いのじゃな?』
「山神様が、受け入れよと申されたよ」
『そうか』
「雪乃、シイを世話人にする。呼んできておくれ」
こうしてユーパロ村での生活が始まったのだった。