マーサと考察
「なるほど。これはまた、興味深いね。」
「この街並みは、私の住んでいた街に似ているわ。」
「ソルは神として崇められていたんでしょう?」
「幾つもあった国の一つを治めていたの。国同士の争いは無かったけれど、互いに独特な文化を誇っていたわ。」
「それなら、ここはソルの治めてた国なのかな?」
「その影響は有るけれども、こんな場所は記憶にないの。そもそも、私が封印された時には、国は滅んでいたわ。」
「何で滅んたんだよ!」
「私は人々が幸せに暮らせる様にと、様々な決まりを作って行ったわ。それは確かに平和と安定を生んだのよ?何か問題が起こる度に新しい決まりを作って解決して行ったの。」
「それは、素晴らしい事じゃないの?」
「そうね。国は発展して、大きくなり、周囲の国々を吸収して行った。でもね、決まり事とは万能では無いのよ。決まりが増えれば増える程、守りたくても守れない事も増えてくるの。」
「それはやがて小さな争いになり、拡がって行ったのよ。お互いに正義があって、守りたい幸せがあって、大切な家族が居たわ。」
「まるで鏡面界の様だね。」
「全て人々の幸せの為。私はそう思っていたの。でも違った。決まり事という私のおごりが、人々の繋がりを断ち切っていたの。それに気付いた時には、もう遅かったのよ。」
「意外にいい奴だな!ソル!」
「意外とか言わないでよ!」
ある程度見て回った所で、公園の様な場所で腰を下ろす。
「現状から見た仮説をいくつか話すわね。先ずは一つ目。」
マーサはもう何かに気付いているようだ。
「ここは生きて行くのに必要なものが、未使用の状態で放置されている事から、ここを作った何者かの意図しない事態が起きてしまい、使用出来なかった。若しくは、使用させなかった。」
「………」
「二つ目。ここを街の雛形として、試験的に製作した。または、文明の保存、展示する目的に製作したなど、元から使用する事を想定していない場合の全てとしましょう。」
「ここで注目したいのが、この街が何故空に浮かんでいるのか?何でだと思う?」
「空に生きる人達だったのかしら?」
「災害から避難する為とかじゃないかな?」
「かっこいいからだろ?」
「力を見せつける為かも知れないわね。」
マーサは興味深く皆んなの意見を聴いている。
「そうだね。どれも可能性はありそうだ。そこで、この本の内容を話すとしよう。」
遺跡に残された、龍の絵が描かれた本を取り出し、続ける。
「この本は遺跡の人々が信仰していた経典だ。他の星から恵みの大地に降り立った神々。そして、どの様に人間を作り出したのか。どの様に人間を運用していくのかが書いてある。」
「つまり、遺跡の人々は人間では無いのか。」
「いや、人間さ。」
「え?」
「神様と繋がりを持たない人か、繋がりを無くしてしまった人々だろう。」
「だが、その人々から隠れて古い龍神信仰を守っていた人達も居た。次元龍テラを信仰する人達だ。」
「彼らはテラからの天啓を受け、恵みの神様との深い繋がりによって豊かな人生を送っていた。」
「遺跡の人々はテラの力が欲しかった。そして、次々と奪って行ったのだろうな。」
「今分かっているのはここ迄だが、私が思うに、遺跡の人々から逃れる目的でここは造られたのだと思うよ。まあ、まだ推測だね。」
ソルの話も、マーサの考察も鏡面界の状態と似ていると感じてしまう。何れも源の龍として覚醒したカイにとっては、相容れない世界であった。
「テラならばどう感じるのだろう。」
もしかしたら、テラの力で遺跡ごと封印したのかもしれないな。そんな風にカイは思った。