砂漠の決闘
「ちょっと邪魔するよ?」
『あら?いらっしゃい。』
『マーサちょうど羊羹を作ったのじゃ。』
「まあ、美味しそうだね。いただくよ。」
マーサは何となく元気が無かった。原因は最近のあれだろう。シロも雪乃も溜息をつく。
『龍神様にも困ったものね』
『はっきりと言ってやったらどうじゃ?』
「それはもう、バッサリと言ってるのさ。毎回ね。」
『もう、それはストーカーね!』
『ここらで、討伐しとくか?』
「そうなんだよ。私もね、腹を決めたよ。」
『………やるのね。』
「ああ、爺さんと決闘する!場所は50階層の砂漠でね。」
『じゃあ、これが必要じゃな?』
雪乃は、タンスの引出しから預かっていた装備を渡す。
それは正に魔女の正装であった。
『これも必要かしら?』
シロも空間から魔女の杖を出して、マーサに手渡した。
それらを装備したマーサは、魔力を解放する。
とてつもない魔力の渦がマーサを包み込み、それが圧縮される様に収縮する。
「ちょっと、太ったかしら?」
そこには若々しいマーサがいた。
『これ、逆効果じゃないかしら?』
『私からしてもナイスバディじゃな』
「フフフッ。大丈夫よ!必ず玉は取るわ!」
『…ほどほどにね?』
『…ほどほどにな?』
「あんな爺さん楽勝よ!!」
−−−−−−−−−−−−−−−
『そういえば、カイ達もそこに居るわね』
『……しまった』
『見に行きましょうか?』
『そうじゃな。』
何となく物騒な展開なのであった。
−−−−−−−−−−−−−−−
「カイ、どうしたの?」
「皆んな俺の後に!早く!」
カイは皆んなを包み込む結界を張った。
途端に爆風と共に砂嵐が襲う。
「うわ!何だよこれ!」
「えーと、この魔力はマーサさんだわね?」
「お爺さんも居るね。」
そこに水鏡からシロと雪乃が飛び出してきた。
『無事で良かったわ。』
『ぴーちゃん達は危ないから今日はお帰り?』
『うん!わかった!お家でお留守番ね?』
『そうじゃ。頼んだよ?』
ぴーちゃん達は水鏡で帰って行った。
「マーサさんついにキレたのね?」
『まあ、そうね。フフフッ。』
「龍神様に勝てるのかしら?」
『心配するなら龍神様よ?危なくなったら助けないとね?』
「行ってみよう!」
それはもう人の戦い、まして、痴話喧嘩の類では無かった。
「……マーサさん、凄く綺麗ね。」
『まあ、爺さんが惚れるのも無理はないの』
龍神様は龍化して雷となり反撃しようとするが、高い津波の様な水魔法に阻まれ、更に神聖魔法であろう光の柱に貫かれる。そして間髪入れずに煉獄の炎に包まれた。
「お爺さん、もうボロボロじゃないか」
『もうそろそろかしら?』
『そうじゃな。始まったようじゃ』
バチバチという音と共に真っ黒い玉が龍神様を覆うと、炎を吸い込んでいく。それは稲光を放ち巻き込みながら全ての炎を吸い込むと、急激に収縮して爆発した。
「…あれ、大丈夫かしら?」
『龍神様の勝ちじゃな』
『マーサ!加勢しましょうか?』
「…手出し無用!」
マーサは杖を掲げ、頭上に黒い玉を3個作り出し、高速で回転させ始める。
そして静かに放った。
「切り刻め」
ヒュン…ヒュン…ヒュンと高速移動する何かを追いかけるマーサの魔法は、バチッという音と共に消え去った。
そこにはナイスミドルな龍神様が、ちょい悪な感じでイキっていた。
バキッ!!
「あっ!ごめん。ついイラッとして殴っちゃった」
「…カイ。いや、ありがとうね」
龍神様は白目を剥いて意識を飛ばしている。
『さて、帰るかの?』
『マーサも一緒に夕飯どうかしら?』
「そうね、お腹すいちゃったわ!いただこうかしら。」
「今日はすき焼きなんだぞ!」
「まあ!楽しみだわ!」
「お爺さん、ごめん」
こうして龍神様の恋は終わった。