雪女
「よお、」
「ん?」
「何か腹減ったぜ」
「…ああ」
俺は干したコマイをヒロに渡す。
「取り敢えず、これ食っとけよ」
ヒロはカチカチのコマイをストーブで炙りながら齧り始める。
「…美味いな」
この化け物になってしまった3人をどうしたものか。放置する訳にもいかず、ログハウスに集めてベットに寝かした上で拘束した。
「これ、何かの病気なのかね」
「そんな病気聞いたことねぇよ」
「生きてるのか死んでるのかさえ分からんよな」
「俺はさ、アキにプロポーズしたんだ。そしたら、アイツ柄にもなく泣き出しちゃってさ」
「うん」
「小さい頃に親に捨てられて、顔も覚えて無いんだって。ずっと孤児院で寂しかったって、ずっと家族が欲しかったんだって泣いてさ」
「うん」
「こんな私が、こんな私が本当に家族が出来るの?つってさ、俺は…」
「……」
「俺はアキを救いたい。人間に戻したい。一緒に生きて行きたいんだ」
パタン、椅子に座って居たヒロがテーブルに突っ伏した。
「……おい、ヒロ?うわっ!」
ヒューッと部屋の中に冷たい風が吹き荒れ、思わず目を瞑ってしまう。
『人の子よ』
「 …え! 」
俺の目の前には真っ白な髪をして、真っ白な和装の真っ赤な真っ赤な瞳の少女がいた。
『其奴は取り込まれたのぉ、厄介な事じゃ』
「取り込まれた?ヒロが?」
『あのトカゲにな。お主らは迷い人であろう?なら知らんでも無理はない。』
「あっ!ヒロ!おい!ヒロ!」
『案ずるな、少し眠っているだけじゃ』
ヒロは安らかな顔で呼吸も安定している。本当に眠っているようだった。
「……君は、雪女?」
『雪乃じゃ。この辺りは私の庭なのじゃぞ?迷い人では致し方ないがの。やれやれ、また面倒な事よ』
この雪女、雪乃には敵わない。魂がそう叫んでいた。絶対的な強者だと自然と理解していた。
「カイと言います。貴女は俺達をどうするつもりなんですか?」
『ほう、』
雪乃はすぅっと目を細めると
『カイとやら、なかなかに見所がありそうじゃな。ふむ、付いてくるが良い』
俺がヒロを振り返ると
『其奴は運ばせよう』
ヒュンッと風が流れると雲の様なものがヒロを包み浮かしていた。
『付いて参れ』
外に出ると、冬の日差しが雪に照り返し、全てが輝いていた。
『なに、すぐそこじゃよ』
いたずらに微笑む雪乃は、無邪気で悪意など感じられなかった。
そんな雪乃はカイを振り返り、
『カイは騙されやすい性格じゃな?』
と言って、ころころと笑うのだった。