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第26話 第一師団長エンヴリット

「さて、自己紹介がまだだったな。私はエンヴリットだ。ファークラス王国軍第一師団の長を務めている」


 それに対し、シルビアが順番に紹介をしていく。


「私から紹介させてもらうわね。この子はフラウリナ、この子はエスリンよ」

「おぉ、フラウリナにエスリンか。よろしく頼む……ん?」


 エンヴリットとエスリンの眼が合った。エスリンは目をそらすことなく、軽く会釈をする。対するエンヴリットも微笑むだけだ。


(私が〈焔眼(えんがん)〉だとバレていないようだ。安心した)


 エスリンが思い浮かべていた最悪のシチュエーション。それは出会って即、開戦になることだ。

 そうなればシルビアに多大な迷惑をかける事になる。そう思い、エスリンはエンヴリットに疑われるような感情は一切出さないように集中した。これで警戒心など出してしまえば、一瞬で終わってしまう。

 エスリンの努力が実を結び、エンヴリットはすぐに視線をシルビアへ向けた。


「シルビア、パーク・ルリキュールを監査したそうだな」

「えぇ、監査するに値する家だと確信しましたので」

「本当に助かっている。この前も喋ったが、人攫い事件は今でも続いているし、どうにもクサイ情報しか入ってこなくてな」


 そこでメイド長は咳払いを一つした。


「あらあら、エンヴリット第一師団長。そういった話は、我々が席を外してからになさってはいかがでしょうか?」

「いやぁ良いさ。この程度の話――」

「その程度の話が、今後に大きく響いてくるかもしれませんよ? 少しは自覚を持って、発言したほうがよろしいかと」


 メイド長は笑みを浮かべたまま、言い切った。その発言に、エンヴリットは小さく唸る。

 エスリンはその直後、エンヴリットが窓の外の景色を見て、心を癒やしていたのを見逃さなかった。


「お、おう。そうだな。メイド長の言う通りかもしれない」


 シルビアが軽く手を挙げ、それ以上の発言を止めた。


「まあ、良いじゃないメイド長。エンヴリット第一師団長が良いと言っているのなら、ね?」

「そうですね。それでは傾聴いたしましょう」


 先程までの態度とはうって代わり、メイド長はそれ以上口を開くことはなかった。

 エスリンはエンヴリットとメイド長を交互に見やり、こんなことを考えていた。


(やっぱり何かあるな、この二人)


 第一師団長とメイド長。純粋に立場だけで見れば、第一師団長が上だ。だと言うのに、エンヴリットは妙に弱々しく見える。

 昔に何かがあったとしか思えなかった。

 好奇心が湧いてくる。しかし、これはメイド長には知られないように。


「おっと、その前にお手洗いに行きたいな。そこのメイドちゃん、案内してくれるかな?」


 エンヴリットが指さした先にはエスリンがいた。正直、断りたい気持ちでいっぱいだったが、ここで下手に断ると、面倒なことになってしまう。

 エスリンがシルビアの方を向くと、彼女は小さく頷いた。どうやらシルビアも同じ気持ちだったようだ。


「分かりました。それではこちらへ」


 廊下へ出て、エスリンはお手洗いの方角へ顔を向ける。


「それでは場所を案内しますね」

「おいおい、私は方向音痴なんだ。付き添ってくれよ」

「……分かりました。それでは私についてきてください」


 エスリンは先頭になるべく、エンヴリットに背を向ける。


「――――」


 次の瞬間、エンヴリットは鞘から剣を抜き、大上段の構えをとっていた。

 無音の所作。エスリンは背を向けたまま。エンヴリットはそのまま音もなく、剣を斜めに振り下ろした。


 次の瞬間、エンヴリットは吹き飛んでいた。


「あっ」


 拳を振り抜いたままの状態で、エスリンは自分のしでかしたことに気づいた。あのエンヴリットを殴り飛ばしてしまった。

 エスリンはエンヴリットに斬られることはなかった。まず彼女が振り下ろしたのと同時に、背後を向いた。そして手の甲で剣身を叩き、軌道を逸らす。最後にがら空きの頬へ拳をお見舞いしたのだ。

 エスリンの膂力(りょりょく)は凄まじく、エンヴリットが軽く飛んでいった。


「良い反応してくれるじゃないか。久しぶりの高揚感だよ。なぁ、〈焔眼(えんがん)〉?」

「……誰のことを言っているのか、分かりませんね」


 エンヴリットはゆらりと立ち上がった。彼女の左手のひらがほんの僅かに赤くなっていた。殴ったと思った頬は全くの無傷。


(あの一瞬で防御できたのなら、そっちも良い反応してると思うけどな)


 心のなかでそう呟くエスリン。対するエンヴリットは獰猛(どうもう)な肉食獣を思わせる笑みを浮かべていた。


「良いや、お前のことだエスリンとやら。お前の筋肉と体捌きは〈焔眼(えんがん)〉と全く同じだ。言い逃れはさせない」

「良くそれだけで分かりましたね」


 これ以上隠していても不毛。そう判断したエスリンは〈焔眼(えんがん)〉とは口にしないまでも、それ前提で話をすることにした。


「ある日、こつ然と裏舞台から消えたと思ったら、ヴェイマーズ家に転がり込んでいたとはな。なんという偶然だ」

「そうですね、全ては偶然ですよ。ここのメイドになったのも、貴方と再会したのもね」


 エスリンとエンヴリットの間に緊張感が走る。

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