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第19話 フラウリナの趣味

 ルリキュール領は比較的自然が少ない領地だ。代わりに見るのは沢山の建物。

 街道が比較的広めに作られているのもあり、商人や旅人の出入りが多い。

 シルビアたちはルリキュール領主であり、今回のターゲットであるパーク・ルリキュール侯爵の屋敷を目指していた。


「ここがパーク侯爵のいる街ですか。なかなか賑やかなところですね、シルビアさん」

「えぇ、ここは人の動きが激しいから、色んな珍しい物が見られるわよ」


 エスリンがぼんやり馬車から街の様子を眺めていると、フラウリナが少しだけ声を漏らした。


「あっ……」

「どうしたのフラウリナ?」


 思わずエスリンが問いかけると、フラウリナは顔を横にそらした。

 

「いえ、何でもありません」

「いま何か可愛らしい動物のアクセサリー屋さんがあったような……」

「気のせいです」

「結構眺めていたような……」

「気のせいです」

「あの気持ち悪い猫のような物体を眺めていたような……」

「っ! 〈ロクバスキャット〉の悪口を言わないでください!」

「うぉ、声でっか」


 そこでようやくフラウリナがエスリンを睨みつけた。よほど〈ロクバスキャット〉とやらが好きなのだろう。

 めったに見ないフラウリナの姿だったので、エスリンは会話の継続を試みることにした。


「あれって〈ロクバスキャット〉って言うの? 何かこう、グロくない?」

「あの可愛らしさをグロい、ですか。中々終了した美的センスを持ち合わせていますね。あの飛び出しそうなまん丸お目々をそんな風にしか表現できないのですか?」

「飛び出しそうなっていうか、あれもうほとんど飛び出しているようにしか見えないんだけど。何あれ、両目が変な方向向いていたけど」

「あれが良いのです。あのお目々は世の中の歪みを視ているんですよ」

「歪み……? 自分自身が歪んでいるのに、視られるの?」

「見られるんです。〈ロクバスキャット〉はそういう超常的なキャラクターなんですよ」

「キャラクター……か。他に何か設定あるの? 例えば行動目的とか?」

「世界の三分の二を消し飛ばすことです」

「思った以上に危険すぎた……」


 情報が濃くて、エスリンはすっかり満腹だった。ただのグロキャラかと思えば、妙に危険な目的を抱いているとかいう訳の分からなさ。

 最初は冗談で喋っているのかと思えば、目が本気(・・)だった。

 そこでシルビアが助け舟を出した。


「エスリン、理解しろとは言わないけど、分かろうとはしてあげて。ヴェイマーズ家がフラウリナを保護した時、彼女は〈ロクバスキャット〉のぬいぐるみを抱いていたのよ」

「なるほど、思い出の品ってやつですか」

「フラウリナはそのへんの記憶が曖昧だから、本当のところはどうなの分からないけどね」

「エスリン・クリューガにはそういう思い出話のようなものはないんですか?」


 フラウリナに言われ、エスリンは試しに思い出そうとしてみる。

 しかし、彼女が思い出せるのはごく限られた思い出だった。


「物心ついた時に凶暴な動物がいる山に放り出され、一ヶ月サバイバルして、そこから人殺しの訓練してたなぁとかならすぐ思い出せるんだけどね」

「〈焔眼(えんがん)〉と呼ばれる前の話? 興味深いわね」

「あんまり面白い話じゃないですよ。一緒に訓練してた仲間を皆殺しにさせられたりしましたし」

「……そう。悪かったわ、変なことを聞いた。謝罪するわ」


 そう言い、シルビアが頭を下げようとしたので、エスリンは慌てて止めた。


「シルビアさんが謝ることじゃないですよ。頭をあげてください」

「これは、いつもフラウリナやメイド長には言っていることだけど」


 そう前置き、シルビアは続ける。


「過去は過去よ。今の貴方たちはこのヴェイマーズ家のメイドだということは、しっかり覚えておいてちょうだい」

「……ありがとうございます、シルビアさん」

「さて、そろそろパーク侯爵の家に着くわ。各自、武装の確認」


 フラウリナは両腰の剣を確認し、エスリンは左腰に提げた剣の感触を確かめる。


「ヴェイマーズ家が監査する際、同行者には武装が認められているわ。なぜなら、相手が襲いかかってきたときに抵抗が出来ないからね」

「本来ならスムーズに行われて然るべき、なのですがね」

「フラウリナの言いたいことは分かるわ。けど、物事は常に最悪を考慮するものよ」

「そうですね。ですがご安心ください。このフラウリナ、シルビア様の歩みを塞ぐ有象無象は全て切り払ってみせます」

「期待しているわ」


 馬車が停車した。とうとうルリキュール邸までたどり着いたことを示した。

 エスリンとフラウリナはそれぞれ資料を入れた鞄を手に持つ。

 シルビアを先頭に、一行はルリキュール邸の呼び鈴を鳴らした。


(あれは……)


 シルビアは言葉に出さずとも、自然と戦闘準備に入ることが出来た。

 何せ、出迎えたのは――。


「これはこれはヴェイマーズ卿。何の前触れもなくお越しになるとは、小粋な悪戯と心得た方がよろしいかなぁ?」


 〈微笑みの聖人侯爵〉、パーク・ルリキュールが一人でやってきた。

 想定外の出来事。だが、こと監査においては百戦錬磨のシルビアだ。表情を一切変えず、冷静に対応する。


「ご無沙汰していますパーク・ルリキュール侯爵。私が事前の連絡を送らぬ無礼の理由、お分かりですね」

「もちろんですとも。崇高なヴェイマーズ家の役目、存分に果たしていかれるといい」

「ご協力感謝します。それにしても、多くの方は驚かれるのですが、ルリキュール卿はあまり驚かれないのですね」

「はっはっはっ。ルリキュールが国ひいては領民に報いることが出来ているかを確認して頂けるまたとない機会。このために僕はいつも書類整理をしておりますよ」


 シルビアはパーク侯爵の微笑みに、悪魔の表情を視た気がした。

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