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初対戦②

 ダガーを腕で防いでみせた事に唖然とするアンナをよそに、ミツハは着地してダガーが突き刺さった腕を見る。


「あー、やっぱり動かせないですか」


 ダガーは想像以上に深く突き刺さっていたらしく、もう片腕は使えないなとミツハは刀を片手で振るえるよう構え直す。


「……なんで、分かったの?」


 そんな彼女に、アンナは攻撃の手を止めて問いただす。


「ん?」


「あの防御は前もってどこに当たるか分かってなきゃ無理よ」


 アンナは見ていた。自身がダガーを投げたのと同時にミツハが心臓部分に腕を持ってきていたのを。


「あたしが心臓を狙うってこと、どうして分かったの?」


「……分かってはいませんでしたよ。ただ急所となる場所を咄嗟に守っただけです」


「急所を?」


 どういう事かと構えを解いて話を聞こうとするアンナに、その意図を察してミツハもまた構えを解き、説明する。


「アンナさん、攻撃する時いつも急所を狙っていました」


「最初に地中から奇襲してきた時は首を狙っての攻撃」


「一発目の投擲もそう。あれはきっと喉を狙っていました」


「急所ばかりを狙ってきている。そう思ったので急所となる場所を守っただけです」


 まあほとんど博打な行動でしたけどね、と言って苦笑するミツハ。


「……」


 説明を聞いたアンナは再び驚く。まさかたった二回の攻撃で自分の癖を見破られるなんて、と。


 全てミツハの言う通りだった。奇襲による一撃必殺を基本戦術とするミツハは、常に急所を狙うよう意識して戦っており、今では無意識で急所を狙えるようになっていた。


 しかしまさか、その癖を利用されるなんて……と、そこで一つの疑問が浮かぶ。


「あんた本当に初心者? 嘘ついたりしてない?」


「う、嘘じゃないですよ!? 本当にこの対戦が初めての初心者で!」


「えー……」


 慌てる様子のミツハに嘘は感じられない。それが本当だとしたら、彼女はどれほどの才能を持ってるんだと逆に引いてしまうアンナであった。


「まあいいわ」


 しかしと、アンナは緩めていた戦意を引き締め直す。


「要するに、あんた相手に油断しちゃダメって事ね」


「……!」


 今まで以上の闘気を見せるアンナに、ミツハも緊張の面持ちで刀を構える。


「ギア、上げていくわよ」


 そう言うとアンナは、大きく後ろへと一歩退く。


 アンナが退いた先には木々が連なっており、その木陰へ溶け込むように彼女は地中へと沈んでいった。


「っ! またそれですか」


 それを見たミツハはその場に留まり、全方位に警戒を巡らす。


(足元にも気を配らないと───)


 ミツハが下に注意を払った時、


「ぐうっ!?」


 右肩に鋭い物が掠めた。


「うーん、やっぱ遠すぎると狙いが逸れるわね」


 その正体はダガー。そしてそれを投げたアンナは、ミツハが予想するよりも遠くの木陰から顔を出していた。


「得物はまだまだあるわ。それまでに仕留める」


 それだけミツハに伝えると、アンナは再び地中へと消えた。


「くっ……!」


 もう一度、今度はもっと周りにも気を配って、


「ぐあっ!」


……が、ダメ。再びダガーが体を掠めるだけに終わる。


「……っ」(ジッとしていたらダメだ!)


 このままじゃジリ貧だと、ミツハはとにかく走り回る。


「はぁ、はぁ」(どうする? このままじゃ一方的に攻撃されちゃう)


 地中へ潜る相手にミツハは攻撃する術を持たない。足元への警戒は怠っていないが、さっきのように遠くからダガーを投げられたらそれも無意味だ。


 ならば警戒範囲を広めるか? いや、相手の出現ポイントは地表全てだ。確実に警戒の穴が出来てしまう。


(どうすれば……ん?)


 ふとミツハは、あれから攻撃が来ていない事に気付く。

 何かを狙っているのか? そう思い辺りを見回すと、アンナは遠くの木陰でこちらを見ていた。


「げっ、ヤバッ」


 見られたアンナは慌てて地中へと潜っていく。


「……」


 それを見てミツハは考える。


(なんで攻撃しないのに地面から顔を出したんでしょうか?)


 その理由を考え、走り回ってから攻撃が止んだ事に気付く。


(……地中だと相手の位置を把握出来ない?)


 それとも走り回る相手に当てるのが難しいだけか……いずれにせよ、地中でも何かしら相手の位置を把握できる術を持っているに違いない。そしてそれを可能にするのは、


(スキルですか!)


恐らく地中でも相手の位置が分かるスキルを持ってるんだろう。さっき地上に出ていたのは狙いを定める為……もしくは、ずっと地中に潜り続ける事が出来ないのか。

 しかしまだ疑問は尽きない。いや、これは違和感と言うべきだろうか。


(アンナさんが出てきたあの場所……)


 思い返せば彼女は地中から出入りする時、木々の近くに居た。

 物陰近くから出た方がバレにくいから? ……いや、物陰ではなく、


(影のある場所でしか使えない?)


 影からしか出入り出来ないのでは無いのか?


「……試してみる価値はありそうですね」


 そう呟くとミツハは走る。それは闇雲な行動ではなく、一つの目的を持っての事だった。









「───ここで良いでかね」


 走り続け、やって来たのはひらけた場所。


「……」


 何もない場所で、ミツハは刀を鞘に納めて居合の構えを取る。


「……」


 ある一点にだけ意識を集中する。他の場所には目もくれず、そこだけに意識を向ける。


「……」


───かくしてその場所……ミツハの影から(・・・・・・・)


「やっぱり!」


 アンナが飛び出してきた。


「なっ!?」


 まさか自分が出てくる位置を予測されていたとは思わず、驚きの声を上げるアンナ。しかし、次に彼女が起こした行動に彼女は更なる驚きを見せる。


「───〈旋風の(らん)〉!」


 そうミツハが叫ぶと、彼女の周囲を無数の風の刃が切り裂いた。


「……は?」


 無数の斬撃をまともに食らったアンナは、


「はあああ!!!?」


 防御をする事も出来ず、驚嘆の表情を浮かべたまま体を切り刻まれた。


───『GAME SET!』


───『Winner 〈風間ミツハ〉!!』


……こうして、ミツハの初対戦は終わりを迎えた。


▼▼▼


「〜〜〜っ! か、勝てましたー!」


 フィールドから戻って来たミツハは、初めての対戦で勝利出来た事にこれ以上無い喜びを感じ、思わずその場でピョンピョン飛び跳ねてしまっていた。


「コーン!」


「シロコ! 私やりましたよ! 初対戦初勝利です!」


 シロコはミツハが帰ってきたの見るや否や、嬉しそうに彼女の胸へと飛び込んだ。


「……よ」


 そして、ミツハと同じくフィールドから戻ったアンナはというと、


「こんなの反則よ!」


「へ?」


 ミツハに怒りの形相で睨んできた。


「一度も戦った事が無いって嘘じゃない! あんた、騙してたのね!」


「え? いや、私は本当に」


「じゃあなんでスキルを三つ持ってんのよ! レベル二以上じゃなきゃ出来ないわよそんなの!」


 ムキーッ! と、地団駄を踏むアンナに、ミツハはどうすればいいのか分からずアワアワしてしまう。


「リリィもびっくりだよ! ミツハちゃん、レベルいくつなの?」


 観戦していた三人も先の出来事に各々反応を示しており、ピンク髪の少女がミツハにその事を尋ねた。


 レベルとは、バーチャル・ヒーローズのプレイヤーが持つステータスの一つである。レベルが高いほど基礎スペックも上がり、レベルの半分の数だけ所持出来るスキルも増える。


「えっと、レベル四です」


「四んんん!? あんた、レベル四の初心者なんている訳ないでしょ!!」


「あ、あわわわ!?」


 というかあたしより一つ上じゃない! と怒るアンナに、またもやどうすれば良いのか分からず慌てるミツハ。


「あらら、まあアンナちゃんが怒るのも無理ないかなー」


 その光景を見て自業自得だなと静観するピンク髪の少女。


「……ふむ、ねえミツハちゃん」


「は、はい」


 そんな中、ミツハに助け舟を出したのはショートボブの女性だった。


「あなた、対戦はこれが初めてなのよね」


「そうです」


「ならどうやってレベルを上げたの?」


 レベルは基本、誰かと戦う事で上昇する。しかしその他にも、レベルを上げれる方法が存在する。


「えっと、トレーニングモードでひたすら剣術を磨き続けてました」


 鍛錬。バーチャル・ヒーローズにはトレーニングモードがあり、それを長期間使えばレベルも上がる。


「トレーニングモードを使って?」


「それだけでレベルを四も上げるって……本当に可能なの?」


 ピンク髪の少女が若干怪しそうにミツハを見る。


「ほ、本当なんですよぉ」


 彼女達の疑念を払拭しようと、ミツハは事情を話し始める。


「私のお家、剣の道場をやってるんですが、そこの師範である父上にバーチャル・ヒーローズのトレーニングモードを使って鍛錬するよう言われたんですよ」


 バーチャル・ヒーローズのトレーニングモードを使った武道の鍛錬は、今の時代当たり前に行われている。


「それっていつから使い始めたの?」


 その為、全員そこに突っ込む事はなく、ショートボブの女性は別の事をミツハに尋ねた。


「十年前からです。……それで私、ある時父上に対戦をやってみたいって言ったんです」


「けどそんな事する暇があるなら剣の鍛錬を重ねろって言われて。その時は我慢したんですが……その、我慢の限界が来て、思わず家から飛び出しちゃいまして」


「……なるほどね、それでバーチャル・ヒーローズが盛んな電脳街に?」


「……」


 黙って頷くミツハに、彼女達は呆れたようにため息を吐く。


「まあ確かに、十年もトレーニングモードを使ってたらレベル四にもなるんでしょうね」


「家出かぁ、ミツハちゃんも大胆な事するね」


「……理由は分かった。その、急に怒鳴ってごめん」


「い、いえ! 私も紛らしい事を言って勘違いさせちゃいました。ごめんなさい」


 誤解が解け、彼女達の雰囲気が柔らかくなるのを感じるミツハは、ホッと安堵の息を漏らす。


「……なあお前」


 そんな中、後ろで成り行きを見守っていた小柄な少女がミツハに声をかける。


「どうしました?」


「お前、家に帰る気は無いんだな?」


「ま、まあ。帰るとしても少し時間を置きたいと言いますか」


「なら話は早いな」


 そう言うと彼女は、細身の腕をミツハに差し出し、


「お前、私らのクランに入れ」


 そう言った。


「「「え?」」」


 彼女の仲間である三人の少女は驚き、


「……え?」


 ミツハもまた、いきなりの急展開に驚いていた。

Tips:スキル

バーチャル・ヒーローズの要素の一つ。

使用すると特殊な行動を起こす事が出来る。取得出来るスキルはプレイヤーのプレイスタイルや適性によって変化する。大技を放てるスキルもあるが、そういうスキルはクールタイムや使用後の隙が大きい。

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