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初対戦①

 ミツハと戦え。なぜそんな事を言うのかまるで分からない彼女は聞く。


「えっとルイーゼ? さっきも言ったけどこの子初心者なのよ? あたし、あんまり初心者狩りみたいな事したくないんだけど」


「確かにこの子は対戦経験ゼロの初心者らしいわね。けど、戦ってみたら案外面白い結果になるかもよ?」


「む……」


 微かに笑みを浮かべて言う彼女に、おかっぱ髪の少女は少し頬を膨らませて不満げに聞き返す。


「それって、あたしが負けるかも知れないってことかな? ルイーゼ」


「さあ? 戦ってみれば分かるかもよ?」


「……分かったわ」


 その言葉で発破をかけられたのだろう。彼女は先ほどと打って変わり、真剣な面持ちでいろはに宣言する。


「そういう事よ。あんたには悪いけど」


 ミツハの目の前に『対戦希望』のホログラムウィンドウが表示される。


「あたしと戦って貰うわ」


▼▼▼


 対戦の申し込みを突き付けられたミツハ。元々誰でもいいから対戦がしたかった彼女は、すぐさま承諾する事にした。


「フィールドは……ノーマルでいい?」


 おかっぱ髪の少女はホログラムウィンドウを弄りながらミツハに聞く。

 ノーマルというのは、現在居る場所をそのまま戦場のフィールドとして使用するという意味だ。今回は電脳街の広場に居るので、広場がバトルフィールドとなる。


「いいですよ」


「おっけー」


「アンナ、私達も見れるよう観戦モードにしておくのよ」


「りょうかーい」


 少女はホログラムウィンドウに表示された設定画面を慣れた手付きで操作していく。


「ホイっと、これでいつでもいけるわよ」


「私の方も準備万端です!」


 その言葉を聞いた少女は設定完了のボタンを押す。すると、ミツハと少女の足元が光り始めた。 


「コンコン!」


「ありがとうシロコ。私、頑張って勝ちに行くから!」


 シロコからの応援に鼓舞された後、ミツハは一瞬にしてその場から消え去った。


「……さて、あなたも一緒に観戦する?」


「コン!」


 ショートボブの女性にそう尋ねられたシロコは、肯定するように一回鳴く。それを見た女性はシロコを抱き抱え、一緒にホログラムウィンドウ越しで観戦するのだった。


▼▼▼


 視界が一瞬ブレたかと思えば、その直後には周りに居た大勢の人達が消えていあ。


「おー、人が居なくなりました!」


 そんな初めての体験にミツハは、ワイワイとあちこちを見回しながらはしゃいだ。


「はぁ、こんな初心者を今から倒さなきゃいけないの?」


 その反応を見て、同じくフィールドに飛ばされた少女は本当に初心者なんだなと億劫そうにため息を吐く。


「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。黒羽アンナよ」


 少女改め黒羽アンナは、軽い調子で自身の名を告げる。


「私は風間ミツハって言います!」


「よろしくねミツハちゃん……それじゃあ」


───『3』


「準備はいい?」


───『2』


「いつでも!」


───『1』


「OK、そんじゃまあ」


───『Ready?』


「始めますか」「尋常に……」


───『Fight!!!』


「勝負!」


 どこからともなく聞こえる機械的な音声が戦闘開始の合図をする。それと同時にミツハは動き出した。


「〈辻斬〉!!」


 力の込もった声でスキル(・・・)を宣言する。するとミツハの体は瞬時に加速された。


 『スキル』、バーチャル・ヒーローズの肝となる要素であり、使用する事で特殊な行動・現象を発生させる事が出来る。

 今回ミツハが使った『辻斬』は、直線上に駆け抜けて通過した相手を斬り付けるというものだった。


 『辻斬』によってアンナとの距離を一瞬で縮めるミツハ。


「まずは一太刀……!?」


 その勢いのまま、背負った刀を抜いて横一文字に振るう……しかし、


「き、消えた?」


 振り抜いた後、そこには誰も立っていなかった。


(どうやって消えて……いや、それよりも)


「アンナさんはどこに」


 四方をぐるりと見回す。しかし居ない。影も形も、何も無い。


「……っ!」


 周囲の警戒を緩めない彼女だったが、不意に嫌な予感が脳裏をよぎった。

 周りにそれらしき気配は感じない。しかし感じる、不穏な空気。


「〈天津風〉!」


 その予感に従い、ミツハはスキルを発動する。


 『天津風』、足元に上昇気流を発生させて体を上空へ飛ばすというもの。

 そのスキルを使ったミツハは、一瞬にして上空へと飛んでいく。その直後、ヒュンッという空気を切り裂く音が真下から聞こえてきた。


「ちぇー、外したか」


「そこに居ましたか……!」


 振り抜いたダガーが空振ってしまい、悔しそうにするアンナ。

 そんなアンナは現在、下半身を地中に(・・・・・・・)浸からせていた(・・・・・・・)


「なるほど、スキルですか」


「ピンポーン」


 アンナはミツハが着地する前に地中から飛び出て距離を取る。


「今まで色んなのと戦ってきたけど、初見で完璧に見切れたのってミツハちゃんが初めてじゃないかな?」


 才能あるんだねー、と言ってケラケラと笑うアンナ。


(まあ、全部のスキルを見れたのは収穫と思っていいかな?)


 その裏でミツハを一筋縄じゃいかない相手と認識し、真剣に彼女の分析を行なっていた。

 バーチャル・ヒーローズで初期に使えるスキルの数は二個だ。初心者であるミツハの持てるスキルは当然二個。それらの効果をすぐ知れたのは大きいとアンナは考えていた。


(突進してくるスキルと上空へ飛び上がるスキル。特に飛び上がるスキルが厄介ね、上へ逃げられたら対処が難しい)


 アンナの基本戦術は、先ほど使った地面や壁に潜れるスキル『暗泳』を駆使して背後に回り、不意打ちで仕留めるというもの。

 一見強力に見える『暗泳』だが、ある制約によって無闇に使う事は出来ない。


(あの地面に潜るスキル、かなり厄介ですね)


 しかしその制約を知らないミツハは、再び地面に潜られるのを警戒して迂闊に近づけなかった。


「「……」」


 一瞬の静寂が場に流れた後、果たして先に動いたのは……


「シュッ!」


 アンナだった。


「……っ」


 アンナは持っていたダガーを投擲する。当然、ミツハはそれを避けるなり弾くなりして対処をしなければならない。


「武器が一つだけとは」


 ミツハがダガーを刀で弾いて対処する間にもアンナは肉薄していき、


「限らないんだよ!」


 懐に隠していたもう一つのダガーを逆手に持ってミツハ目掛けて突き刺す。


「くっ、〈天津風〉!!」


 緊急回避として『天津風』を使ったミツハ。


「甘いわねぇ!」


 しかしそれを読んでいたアンナは、振るったダガーをすぐさま持ち直し、上空へ逃げたミツハへ投擲する。


(取った!)


 空中で攻撃を避ける事は不可能。そしてダガーは丁度足元から飛んで来ている為、刀を使って弾き飛ばす事も難しい。加えてミツハの持つもう一つのスキルでは、向かってくるダガーを対処する事も出来ない。


 ダメージは免れない。これで仕留め切れるとはアンナも思っていないが、間違いなく大きな傷を負わせられるだろう。


……そう考えていたが、


「なっ!?」


 アンナの予想に反して、ミツハの怪我は最小限で済んだ。


「〜っ! 上手く、いきましたね!」


 心臓に向かっていたダガーを、彼女が腕で受け止める事によって。


▼▼▼


 ミツハとアンナの戦いを観戦する三人と一匹は、ダガーを腕で防ぐミツハの行動に対して各々反応を示していた。


「ヒュ〜♪ やるねぇミツハちゃん」


 ピンク髪の少女は良くやるなと感心し、


「うわぁ、よく咄嗟にあんな事できるな」


 小柄な少女は感心を通り越して寧ろ引き気味で、


「コ、コォン!?」


 シロコは慌てていた。


「……」


 そんな中、ショートボブの女性は顎に指を当てて考え込む。


「どうしたルイーゼ?」


「……いえ、やっぱり彼女、身のこなしが素人じゃないなと思って」


「あー確かに。リリィも初心者があんなに動けちゃうなんてビックリしたよ」


「初心者なー」


 初心者という言葉に小柄な少女は画面内のミツハを疑わしそうに見る。


「……まあ、強ち初心者というのも嘘じゃないのかもね」


 同じくショートボブの女性も不審そうな顔をしていたが、少しして何かを心得たように小さく頷いた。

Tips:仮想世界

仮想転位技術を用いて人類が創り出した、もう一つの世界とも呼ぶべき仮想空間。

人口増加による土地問題を解消する為に作られたこの世界は、今では全人口の三割が仮想世界に肉体を移して生活しており、現実世界より快適だと評判になっている。

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