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電脳の街

 コンクリートで固められた地面。そこに並び立つのは鉄やセメントを使用した建造物ばかりで、道の端には申し訳程度に木々が植えられていた。


……そんな今となっては化石同然(・・・・)の街並みが広がっているが、中には今の時代に見合った物も設置されている。


 空間に広告などを映し出すホログラムウィンドウの数々、店で接客をする人間そっくりのロボット。そして、街の中央に聳え立つ機械的な門。


 どれも街並みに見合わない物ばかりだが、最も異彩を放っているのはその門だろう。


 門の出入り口となる空間は青い光で満たされており、そこから人々が出入りする。

 通称『ゲート』と世間で呼ばれるこの門は、今日も様々な人達の行き来を手助けしていた。


 そしてその少女もまた、そんなゲートを使ってこの街に訪れた者の一人である。


「ここが噂の街、電脳街ですか」


 若草色の瞳に黒髪の短いポニーテールをした少女は、ゲートから顔を出して街を見渡す。


「やっぱりそこかしこでやってますねー」


 街中では3Dホログラムが点々と地上に表示されており、そこには『対戦中』と赤文字で記されていた。


「うー! 早く誰かと対戦してみたいです!」


「コンコン」


「お? シロコも楽しみですか?」


「コン!」


 少女の後に続くようにゲートから小さな白い狐が現れる。シロコと呼ばれたその狐は、今の気持ちを表現するように気分良く鳴いた。


「よーし行きますか。レッツゴーです!」


「コォン!」


 少女、風間ミツハは踏み入れる。仮想世界の中心地にしてバーチャル・ヒーローズの聖地、電脳街へ。


───グゥ〜


「……対戦の前に、まずは腹ごしらえですね」


「コ、コン」


 不意にお腹から大きな音を鳴らした彼女は、少し頬を赤らめさせてそう言った。


▼▼▼


 対戦型アクションゲーム、バーチャル・ヒーローズ。十五年前から今日に至るまで人気が衰える事を知らない仮想世界屈指の人気ゲーム。その人気は青天井で、今やスポーツの一種として数えられるほどだ。


 そんなゲームの聖地である電脳街は、今日も大勢のプレイヤーで賑わっていた。









「ご馳走様です」


 電脳街に来て早々、お腹を空かしたミツハは近くにあった屋台でラーメンを食べる事にした。


「さて! ……対戦ってどうやればいいんですかね?」


 昼食を挟む事で高揚する気分が落ち着くと、今になって初歩的な事が分かっていないのに気付いた。


「コン?」


 そんな疑問を投げかけられたシロコだが、当然シロコも知らないのでコテンと首を傾げる。


「うーん」


 早速行き詰まってしまい、どうしたものかと腕を組んで悩むミツハ。


「……お客さん、プレイヤーなんですかい?」


 そうしていると、屋台の店主がミツハに話しかけてきた。


「はい? ぷれいやー、ですか?」


「この街でプレイヤーと言えば、バーチャル・ヒーローズをやってる人の事なんですよ」


「あ、そうなんですか?」


「そうそう。話を聞く感じお客さん新人?」


「はい、一度も対戦した事が無いんです」


「なるほど、だったら此処とかオススメですよ」


 そう言って店主はホログラムウィンドウをミツハの前に表示させる。

 ウィンドウには電脳街のマップが貼られており、マップのとある箇所には赤い点が付いていた。


「ここは?」


「そこは初心者プレイヤーが集まるバトルスポットでね、そこに行けば対戦を募集している人が大勢いると思うよ」


「おお……! 感謝します!」


 お礼を言ったミツハはお代を払うと、シロコを連れて屋台から飛び出た。


「頑張れ〜、応援しとくよ〜」


 間延びした口調で声援を送る店主はミツハを見送った後、不意に怪訝な表情を浮かべた。


「あの子、素人の佇まいじゃなかったけど」


───本当に初心者なのか?


「……気のせいかな?」


 ふとした疑問を考えるのも程々に、店主は新しく入ってきた客の対応に当たるのだった。


▼▼▼


「えーと、ここですかね?」


 店主のアドバイスに従いバトルスポットとやらにやって来たミツハ。


「ふむ」


 彼女は辺りの人達を観察する。


「ねえ今暇? ちょっと対戦しない?」

「お? いいぜ」


「ルールはいつも通りで大丈夫か?」

「おう! 今日こそ勝ってやるぞ」


 見れば店主の言う通り、多くの人達が対戦を申し込んでいた。


「なるほど、思っていたより軽い気持ちで対戦できるんですね」


 対戦を申し込むハードルが下がったミツハは、早速誰かと対戦しようとバトルスポットの中へと足を運ぶ。


「───ねえ」


……その時、彼女に声をかける者が現れた。


「あんた、募集掛けてないけど対戦待ちのプレイヤー?」


 話しかけてきたのは黒髪黒目のおかっぱ髪の少女だった。どうやらミツハに対戦を申し込む為に声を掛けたらしい。


「えっと、募集を掛けるですか?」


 しかしミツハはそれよりも募集という単語が頭に引っかかり、つい口に出してしまう。


「ん? 募集機能知らないの? ……もしかして、かなりの初心者?」


「うっ……お恥ずかしながら、まだ一度も対戦した事が無いんです」


 知って当たり前の事を知らなかったらしいミツハは、少し頬を赤らめさせて初心者である事を話す。


「うーん、初心者相手に勝っても実力なんて把握出来ないだろうしなぁ」


 しかし話しかけてきた少女は、そんなミツハを無視してブツブツ独り言をする。


「あ、あのー?」


「……ああゴメン、やっぱなんでもないや」


「え? あの対戦は」


 何故だか対戦を無かった事にされそうな展開に思わず尋ねてしまうミツハ。


「いやーこっちにも事情があってね、なるべく強そうな奴と戦いたいのよ」


 しかし向こうはもうその気じゃなくなっており、そのまま去ろうとしていた。


(な、なんでぇ?)


 そんな彼女を止める事は当然出来ず、仕方ないから別の人と対戦しようと移動するミツハだったが……


「新人ー? なにモタモタしてんだー?」


 その少女に声を掛ける者が現れ、ミツハは少し足を止めた。


「少しぐらい待ちなさいよね、今強そうな奴を探してる所なんだから」


「お前……仮にも加入希望のクランのリーダーにその言い方は無いだろ」


 そう言って呆れ顔を見せる金髪碧眼の小柄な少女を先頭に、三人の人物がこちらへやって来た。


「まあまあソフィ。折角加入してくれるんだし、ここは大目に見ましょうよ」


 小柄な少女を宥めるのは彼女に反して高身長な、スカイブルーの瞳とショートボブをした大人っぽい女性。


「うんうん、リリィもアンナちゃんの実力はしっかり把握しておきたいからね」


 それを後ろから見て、ニコニコを笑みを浮かべて言う胸の大きいピンク髪の少女。


「お前らなぁ、新入りだからこそリーダーとしての威厳を良く知って貰わなきゃだろうが」


「いげ……ん?」


「おい新人、なんでそこに疑問を持った? お?」


 目を丸くするおかっぱ髪の少女に、小柄な少女は下から覗き込むように睨んだ。


(この人達もプレイヤーなのかな? ……ん?)


 この三人の誰かに対戦を申し込もうかなと彼女達を見るミツハは、それに気付く。


「……」


(え? な、なんで? なんで私見られてるの?)


 ショートボブの女性が何故かミツハの事をジッと見つめていたのだ。


「……ねえ、アンナ」


「ん? なにルイーゼ」


「彼女、さっき話しかけてきたけど戦わないの?」


「え? この人? いやぁ話しかけたのはいいけど初心者だったみたいで」


「初心者……? あなたそうなの?」


「そ、そうです。自分、一度も対戦した事のないペーペーなんです……」


 短時間に何度も初心者である事を指摘され、なんだか無性に申し訳なくなってくるミツハは、顔を俯かせてモジモジしながら言った。


「……あなた、名前はなんて言うの?」


「え? か、風間ミツハです」


「そう……アンナ」


「どしたの?」


「あなた、この子と戦ってみなさい」


「……へ?」

Tips:仮想転位技術

物質そのものをデータ化し、仮想空間に移す技術。

仮想空間という、実質無限のスペースを持つ空間に物を置けれるこの技術は、人類が抱えるあらゆる物理的な問題を解消する事に成功した。

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