第63話 七人の侍女
俺はこの世界に来て最大の失敗をしてしまった。
大陸連絡評議会で各国首脳から託された侍女見習いを、女戦士ミゼールに預けてしまったことだ。高速神魔動飛行船が王都アリスに到着した時には、彼女たちは既に単なる侍女の領域を逸脱していたのだ。
それは、アブラビの女騎士隊が元のようなのだが、それとは違うこの七人独自の進化を遂げた特殊部隊となっていた。もちろん、そんなことを頼んだ覚えはない。ミゼールも、そんな教育をした覚えはないとのことだった。おかしい。
そして、そこにはひとつ大きな疑問が残った。なぜ、それが『忍び』、つまり『くノ一』の技術をも取り込んだものになってしまったのかということだ。忍者を誰が教えたのだ? ミゼールも知らないハズなのに。
こうして、良く分からないうちに「七人の侍女」が誕生してしていた。
<七人の侍女の構成>
ミゼール・アブラビ(十七歳) アブラビ族
パメラ・ウリウス(十三歳) ナディアス自治領
クレオ・カセーム(十二歳) カセーム王国
シュリ・シュゼール(十三歳) シュゼール王国
マナ・オキヒ(十四歳) オキ神国
ミリス・アイデス(十四歳) アイデス王国
スノウ・ナミア(十三歳) ナミア王国(東方諸国連合)
ミゼールは隊長らしい。
* * *
七人の侍女の朝は早い。
あまりにも早くて寝るのを忘れることもある。しかし、問題はない。見事、仕事を終えた暁には彼女たちにも休息は許されているのだ。通常の人間が起き出す頃には深い眠りの底に沈んでいることだろう。
これを、只の素人が見れば、夜中に遊び過ぎて朝になってしまい、ようやく気が付いて眠りについたようにも見えるが、決してそんなことはない。七人の侍女にはあり得ない。
七人の侍女の仕事はきつい。
時には昼食を取れない事もある。受けた仕事の重要性に身震いすることすらあるほどだ。だから、通常の食事ではなく携帯食で間に合わせることも多々ある。それでも、日夜己の使命を忘れず、身命を賭して事に臨んでいる。
これを素人が見ると、昼まで寝すぎて朝食どころか昼食の時間にも間に合わずメイドに泣きついて貰ったスナックをむさぼり食っているように見えるが、そんなことはない。七人の侍女にはあり得ない。
七人の侍女は常に修業を怠らない。
忍者の技術を取り入れた彼女達の技に死角はない。特にすいとんの術に精通するため日夜訓練に励んでいる。まず、女神の姿見で己の装備を確認し、水中では泳法を訓練し、岩場の移動もなんのその。何時でも仕事を受けられるよう鍛錬し、体調を整えているのだ。
もちろん、これを素人が見れば、女神の姿見でおしゃれ自慢をし、お湯の中では黒歴史になるとも知らず泳ぎ回り、それを見つかって怒られないようにそっと抜け出そうとしているように見えるが、決してそんなことはない。七人の侍女にはあり得ない。
* * *
ミゼールが中庭で「七人の侍女」の訓練をしているようだ。少なくとも「訓練しています」と言っているので、きっと何かやっているのだと思う。傍で見てるだけだとよく分からないのだが。
「侍女隊集合」侍女隊が正式名らしい。
「ビシッ」いや、口で言わなくていいだろ。
「よし、では、飛行船でお前らが覚えた、得意技を見せてもらうぞ。いいな」とミゼール。なんで飛行船で技を取得できたのか謎だ。
「「「「「「はい!」」」」」」
「よし、じゃシュリから。いけ」と、ミゼールが号令を掛ける。順に得意技を披露するようだ。
「シュリです。はい! いきます! や~っ。いきました!」どこに行ったんだろう? っていうか、何が行ったんだろう?
「よ、よし。次!」
「パメラです。わらしもいきます。やっ、と~~です」うん。すまん、何したのか説明してくれ。
「つ、次!」
「ミリスですわ。今から消えます。トォ~っですわ」もちろん、ばっちり見えてるが。もしかすると、相手が消えたのかもしれない。聞くべきだろうか? 聞いてもいいんだろうか?
「次、行ってくれ」ミゼールは、ちょっと元気なく言った。
「スノウです。手裏剣しゅしゅしゅです」あ、これはエアー手裏剣だ。子供の頃よくやったな~。
「終わったのか? じゃ、次だ」
「マナですの。えぃっ、えいっ、え~いっ、ですの」たぶん、前の敵を押しのけた感じ? 敵がいたら効果があったのかも知れない。ちょっと、その敵にインタビューしてみたい。
「おいクレオ、起きろ。お前の番だ」
「はいですの。しゅわっち、しゅわっちなの」いや、それ技じゃないし。
「ミゼール、お前は何を教えてたんだ?」
「さぁ~っ?」
とりあえず、飛行船では謎の人物が現れてタブレット見せたっぽいので、飛行船での訓練は全部忘れて貰うことにした。たぶん、見たことないものを見せられて、ショックだったんだと思う。きっとそうだ。
* * *
「侍女見習いの教育については、私達全員が出産して落ち着くまでは侍女長も忙しいですから難しいでしょう。侍従長のバトンに見てもらう訳にもいきませんし」と、セレーネ。
旧領主館は王宮になったのでバトンは執事から侍従長になった。侍女見習いについては各国から預かっている訳で政治的な話でもあるので、扱いをセレーネに相談したのだが侍女長は面倒みれないようだ。
「そうか。しかし、このままミゼールに預けておくと、とんでもない事になりそうなんだが」っていうか、ミゼールこそどうしたらいいか迷ってるんだが。もっとはっきり断るべきだったかも知れない。ここと生まれ育った平原では環境が違いすぎる。平原では戦士でも、ここでは何も出来なくて逆に可哀相だ。
「それから、早めに嫁にするかどうかを決めてくださいね」とセレーネ。
「えっ?」
「分かってるでしょ? 各国はそのつもりで出して来てますわよ。恐らく本人たちもそのつもり。あなたの下に送ったのだから、各国とも相当な覚悟で人選してるハズよ。だから中途半端に放って置くのは可哀相。婚約だけでも決めてあげないと」
「そうよ。みんないい子だし」と、横からニーナも入ってきた。まぁ、後宮の談話コーナーだしな。
「うん。リュウジが選ぶ子ならだいじょーぶ」とミルル。
「そうですね」とセシル。
「わたくしも、そう思いますわ」とセレーネ。
「姉さまの言う通りです」
「そうじゃの」
「う~ん、わかった」
とにかく責任重大だ。しかも七人いる。いいんだけど、なんでこう纏まってくるかな。こういうもんなのか?
この国に、特にこの城に本当に女神様が出入りしてることは、もう城の使用人にまで知れ渡ってるし侍女見習いの娘たちも実際に女神様に会ってしまってるので秘密でもないのだが、公式に認めているわけでもないので極力この情報は漏らしたくない。そうなると猶更、侍女として、ちゃんとした教育をしておく必要がある。不用意な発言が事件に発展する可能性もあるから、城内の常識を知ってもらう必要もある。女神様の情報は、ゆくゆくは一般にも知らせるつもりだが、バラすにしてもパニックを起こさないようにしないといけないからな。
まぁ、俺の嫁だって高等教育とか受けてるわけでもないから、いいと言えばいいのだが国に帰った時に苦情を言われない程には教育しとこう。
* * *
で、家庭教師を付けたのだが、まずミゼールが逃げ出した。サロンで礼儀作法の勉強をしていたのだが。
「あんなこと、戦士には必要ない」ミゼールには苦痛だったらしい。
「いや、その戦士が必要ないんだが」
「そんなことは無かろう。自分で自分の身を守ることは、いつの時代であっても必要なことだ」
「まぁ、そりゃそうだけど。お前の居場所は今は荒野じゃないだろ? 宮廷だろ? ホールだろ? サロンだろ?」
「うううっ」
「それに、お前が逃げ出すと他の娘たちも逃げ出すだろ? あ、そうだ。お前が逃げ出さないなら、お前を先生にしてもいいぞ」
「なに? 我が先生だと?」ミゼール、いきなり食いついた。
「そう、戦士までは必要ないが、最低限の護身の心得とかあるだろ? そういうのを教えてやってくれ。ただし、他の授業も受けろよ? でないと先生として恥ずかしいだろ?」
「うっ。そうか。必要なら仕方ないな。よし、分かった。女戦士の授業引き受けた!」
「いや、女戦士の授業じゃないって。護身の授業だって」
「うむ。心得た」ホントに、わかってるか? ちょっと不安。
だが、自分の居場所を見つけたらしく。それからは、ミゼールも落ち着いた。同時に侍女見習いの娘たちも落ち着いたのだった。
* * *
やはり教育は大事だ。もうすぐ出産ラッシュで俺の子供も沢山産まれる筈だが、教育関連の施設は万全なんだろうか? ちょっとマレスに確認しておこう。いや、ちゃんと学園計画とかやってたので大丈夫とは思うが建設予算とか間に合ってるのだろうか?
「ふふ。大丈夫ですわ」セレーネは問題ないと言う。
いや、身重の嫁に確認してどうするよ俺。ってことで、マレスにも直接聞いてみた。
「はい、計画は順調です。特に問題ありません」マレスは、ちょっと意外な顔で言った。
「そうか。何か困ったら相談してくれよ。あと、俺が出来る記念事業とかないか?」
「お子様の誕生祝いでですか?」
「うん。俺らしい事業。街道作った時みたいな。学園の校舎とか作ろうか?」
「いえ、それは業者がおりますので。では、何か考えておきましょう」
「うん。よろしく頼む」




