第61話 帰るまでが建国祭1
神聖アリス教国の建国祭は滞りなく終わり、大陸連絡評議会も設立され期待以上の成果を収めた。また、招待された全ての国が参加する史上初の国際ネットワークが誕生したことは、魔法共生菌を根絶する上でこれ以上ない朗報となった。後は、合意に基づいて飛行船の定期便を実現し、特効薬を配布するのみである。同時に、貿易も増え栄養事情が改善すれば魔法共生菌に対する抵抗力も増大するだろう。栄養状態さえ改善しておけば急激な蔓延も防げるし、まして人口の急減などという事態には陥らないハズだ。
* * *
建国祭の行事が全て終わった翌日、高速神魔動飛行船は各国の代表を乗せてゆっくりと上昇した。招待したときと同じコースで、各国代表をそれぞれの国へと送る。今回ばかりは、無事に送り届けるまでが俺の仕事だ。流石にリリーは乗っていないが、特効薬配布第一弾としてネムが張り切っている。
俺はその後の状況も見たいので同乗した。本来なら、ヒュペリオン王たちは首都アリスで見送るだけでもいいのだが、何故か付いてくると言う。付き合いのいい王様だ。まだ、国際的な交流が始まったばかりなので、みんな慎重なのかも知れない。
まぁ、ちょっと前の馬車の旅を思えば旅とも思ってないのかも知れないが。最高速度なら二日ほどで帰れるし、客室も過ごしやすいからな。
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まずは、ナディアス自治領だが、この国と接続したトンネルの開通式に立ち会うことになっている。リリー・トンネルの入り口に飛行船を着陸させた時には既に準備は整っていた。準備は飛行艇を使うようになっているからな。随分、便利になったものだ。
ここでトンネル内の照明に点灯する開通式を行う。飛行船で運んできた神魔モジュールをセットして照明を点け、実際に車が通るというセレモニーだ。
トンネル内に設置した照明は結構明るいのだが、魔力を光に変換するのは効率がいいらしく、半年くらい点灯したままに出来る。
「では、点灯お願いします」
係りの者に言われ、俺は神魔モジュールを装着し起動スイッチを入れた。同時にトンネル内に明かりが灯り。合わせて衛兵のファンファーレが鳴り響きゲートが開かれた。すると、待っていた自動荷車や神魔動車がゆっくりトンネル内に入っていった。トンネルを掘った後は、中央分離帯を設置したり空気の換気孔を開けたりもして実用トンネルとして改良を加えてある。
最後の車を見送った俺たちは飛行船に乗り込んだ。王様も走りたがっていたが、これは無視。
「最初に内緒で走ったからいいでしょ?」
「仕方ないのぉ。飛行船と競争しようと思ったのに」王様、今日も趣味全開である。てか、絶対勝てないけど?
「やっぱり。だからダメなんです」
「なに? 見抜かれておったか」だって、リリーも競争したがってたもん。
ナディアス自治領一行を領都に送り、特効薬の配布と説明を終えた俺達は、アブラビに向けて出発した。ちなみに、侍女見習いは領主の息子の二女、パメラ・ウリウス(十三歳)だった。
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次はアブラビだ。
本来のアブラビの拠点は季節により変わるらしいのだが、飛行船で戻ってみると俺が作った人工降雨装置というか山の付近に半定住していた。作った溜め池を見守っていたようだ。牧草も生え出したようで、このまま一部は定住するかも知れないとのことだった。まぁ、遊牧民族なので畜産が主体になるのだとは思うが。
定住に使えるかどうかは分からないが、ちょっと人工山に横穴を掘ってみた。たぶん、恒温室とかに使える。まぁ、山をデカい屋根だと思えば集合住宅にしてもいいのかも知れない。超巨大マンションというか、城塞都市に出来るかも?
それはともかく。俺は作った溜め池をチェックした。
「水は、それほど減ってないな」
「あれから、一度雨が降ったそうだ」とミゼール。
「ほう。まずまずか」と言って良く見たら、ため池から排水する水路がない事に気が付いた。こりゃダメだ。急遽、近くの干上がった川へ接続する水路を作った。雨季になったとき溢れたら大変だ。
「牧草も、元気よく生えてきているし、これからの季節もっと生えるだろう。リュウジのおかげだ」とミゼール。
「うん、まぁホントは、こんなものよりスマートな方法がある気がするんだが。これしか思い浮かばなかった」
「何を言う、これ以外誰も解決出来なかったのだぞ。餓死寸前だったのだ。これで十分だ」とミゼール。
「まぁ、それはそうなんだが」
俺は、自分で作っておいて変だが、たまたまうまくいってるだけのような気がして安心できないのだ。
ちなみに、アブラビからの侍女見習いはミゼールがいるので無し。
「おまえが、侍女って……ぷぷっ」
「お、おぬし、年のことを言っているのか? そうなのか? そうなんだな!」ミゼールが赤い顔で言う。
「いや、別にいいけど、侍女にはならないだろ?」
「当たり前だ。我は戦士だからな」
「女戦士、こわっ」
「怖くない女戦士見習いだ」
「今は怖い女戦士だからな」
「うっ」
怖い侍女はやばいだろ。戦う侍女? まぁ、ボディーガードにはなるかも? てか、全員使徒なので守る必要があるのか不明だ。
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砂の王国カセームはクーデター直後ということもあり、内政はまだ混乱している模様。ただ、内政とはいっても他国との交流も少なく、あまり込み入ったことを管理しているわけではないので、入れ替わった人間が慣れるまでバタつくという程度であるらしい。そもそも役職の管轄が曖昧だったりするのだ。何故なら、法が明文化されていないからだ。
「その辺の改革から始める必要があると思っています」俺が、そのことを指摘すると案外簡単に答えてきた。もともと、この第二王子は第一王子に疎まれて今は無き属国に追いやられていたとのこと。その属国では教育をしっかり受けていたようだ。蝗害で滅亡したため、首都パタンに戻ってきたばかりとのこと。
「全く同じことを毎年繰り返すだけの王家であり国なのです。少しでも変われば、どうしていいか分からない者ばかりです」とピステル・カセーム王。
「まぁ、ありがちではあるな」
「ええ。ただ、それでも変化に対応できる人とそうでない人の区別は付けておかねばならないでしょう」
「今は変化する世界だからな」
「はい。それを全く理解していませんでした」
「そういう意味では、あなたの周りは変化ばかりしていたのでは?」
「そうですね。だから、否応なしに変化に対応するしかなかった」
「でも、変化を起こすのは楽しいかもよ?」
「あなたのようには、中々いきません」
「そうかな。考え方次第だよ。変化はチャンスとも言える。たとえば、今度の蝗害は変化でありチャンスでもあった。そして、そのチャンスを生かした人がいる」
「あまり、やりたいことではありませんでしたが」
「そうだね。でもこれからは、やりたいことをすべきだろう?」
「そうですね」
「そうだ、前回来た時は『友好の印』を何もしなかったけど、何か困ってないか?」
「え? いえ、命を救って貰ったので十分です」
「ああ、まぁ、あれは別として。国の産業を支援するとか出来ないかな? 資源とかあれば……」
「資源は、特にありません」
ー ねぇ、アリス。
ー はーい。資源? どんなもの?
ー 砂漠というと、思い付くのは石油なんだけど、あれがあっても今の時代使えないだろうなぁ。
ー 石油って、ああ、ガスと一緒に出てくる黒くて燃える液体ね?
ー うんそう。
ー あることはあるけど。それより、結晶石があるけど?
ー ホントか? どこに?
ー ここから、リゾート地ピラールへ向かう途中の山にあるわね。黒岩山とか言われているらしい。他にも鉱物があるみたい。
ー まじか。ありがとう。
ー とういたしまして。
「あ、ピステル王。いま、スキャンして見つけたんだけど、北東にある山に結晶石があるようだよ。あと鉱物も」
「結晶石が? あれは売れるんでしょうか?」
「ああ、俺の国なら買い取るよ」
「そうですか! 北東というと、黒岩山かな」ピステル王は、初めて見る明るい顔で言った。
「じゃ、明日行ってみるか。ついでに、街道を舗装すれば自動乗用車でピラールに一日で行けるようになる」
「なんと? 一日で? いままで、十日以上かかってたのに、それは凄い。結晶石が無くてもそれだけで十分です」
「あはは」
カセームから乗り込む侍女見習いはピステルの腹違いの妹で第五王女クレオ・カセーム(十二歳)に決まった。
「すまない、あまり血族が残ってなくて」
「いや、無理に出さなくていいよ」
「どうする? クレオ。やめるか?」
「あのね。あたし、行きたい。あの飛行船に乗っていきたいの」とクレオ。
「遊びじゃないよ」
「うん。母様も、それがいいって言ってたの」
それを聞いて預かることにした。どうもミゼールが気に入ったみたいだし。たぶん、ほっとけないんだろうな女戦士としては。
* * *
黒岩山は、その名の通り黒っぽい岩がむき出しの岩山だった。鉱山としては十分大きいと思う。周囲には石の多い砂漠が広がっていた。
結晶石の鉱脈はすぐに見つかった。殆ど露天に近いので直ぐに売れるだろう。他の鉱物についてはまだ探していないが結晶石が軌道に乗ってからでいいだろう。
街道を舗装するために黒岩山までエナジービームを撃ったらクレオに怖がられた。その後、ミゼールの後ろに隠れている。ミゼールより怖いのか俺。ちょっとショック。って、そりゃそうか。気を付けよう。
ちなみに、この街道を最初に走ったのは、やっぱりヒュペリオン王だった。あと近衛自動乗用車隊。こいつら、やっぱり遊んでいた。そりゃ、最初に配備された自動乗用車に食いついた奴らだもんな。もう、ここに置いてっていいかな。




