第57話 建国宣言、そうだ迎えに行こう!-オキ神国-
「海上から陸を眺めながらの旅には慣れていたんですが、上空からとなるとまた一味違いますね」シュゼールから乗り込んだナエル国王が感慨深げに言った。
飛行船はシュゼールを飛び立ち大陸南端をなぞるように飛んでいる。しかも、海岸まで迫った山がちの地域ではなく、海上を進んでいる。これは、海路とほぼ同じルートになる。ナエル王は、さすがに船旅は慣れているのだろうが、同じ場所でもこの飛行船では見る角度も速度も大違いなので思う所があるようだ。
「うむ。遠くまで見えるからのぉ」さすがに、何度も飛行船に乗ってるヒュペリオン王はコメントも違うな。
「それに、この海の難所キリリス諸島を難なく越えられるのは真に羨ましい限りです」ナエル王は、何か思い出しているような顔で言った。
都市国家シュゼールからオキ神国の首都シンまでの直線上にはキリ山脈が立ち塞がっているので、飛行船は海上を抜けるコースを取っているが、眼下見えているのは、キリ山脈の火山帯の一部とみられる小島だ。キリリス諸島というらしい。この無数の小島が、海路を塞ぎ、海の難所となっているようだ。
「眺めるには、綺麗ですがね」とナエル王。
「確かに。小舟も見えますな」これはナディアスの領主ボーフェンだ。もう、すっかり観光気分らしい。
「あれだけ岩が出ていたら、大型船で抜けるのは恐ろしいでしょう」聖アリステリアス王国の宰相も海の旅の経験があるようだ。
「上空から見る海が、このようなものとは思いもよらなかった。まさに、水が流れているようだ」と、ミゼールの感想は、ちょっと違っていた。確かに、上空からだと島の周りに広がる緑色の輪の間を、透明な水が縫うように流れているようだ。ミゼールは、川の流れを見るように飽きることなく眺めていた。
* * *
キリリス諸島を抜けるとオキ神国の首都シンまでは直ぐだった。首都シンはシュゼールと同様に湾港都市であり、シュゼールとの交易も活発だった。
首都シンの町並みは平屋など比較的低い家が多く、基本は木造建築であり色合いも落ち着いた質素なものだった。ただ、多くの人々が行きかう割には整然としていた。ふと、江戸時代の町並みはこんな雰囲気だったのかもしれないと思った。
「ようこそ、オキ神国へ。皆さまを歓迎いたします」俺たちの訪問理由を伝えると、出迎えに来たラーセル法王がにこやかにそう言った。宗教的には、一応女神アリスを最高神としているようだが、どうも様式が他の国とは少し違うらしく見たことのない法具なども見える。疎外感を持たれていても不思議はないのだが、なぜか親しみを込めた満面の笑顔で迎えてくれた。何だろう?
その疑問は、教会まで行って直ぐに分かった。俺たちの飛行船は白い船体に赤丸、中に女神様の肖像画という構図で思いっきり目立ってるんだが、教会の祭壇には俺たちの飛行船とほとんど同じ女神アリスそっくりの肖像画があったからだ。これなら、同じ女神様を信仰していると一目でわかるし、親しみを持って迎えられるというわけだ。
俺と一緒にいる王様やリリーは勿論、一緒に来ている各国の王族も違和感はないらしい。彼らも、ずっとこの女神様を信奉していたと思っているようだった。
ー これ、どういうこと? 似てるってレベルを越えてるよね?
ー 知らないわよ。
ー 聞いてみるか。
「こちらの、美しいアリス様はどちらの方が、描かれたのですか?」俺は、ラーセル法王に聞いてみた。
「おお、流石にお目が高い。こちらは、我が国で高名な絵師メイフィル師が、ある日突然神の啓示を受けて描いたとのことです。もともと宗教画を描く方ではなく、後にも先にも、これだけしか描かなかったとのことです」
「その方に、お会いすることは可能でしょうか?」
「残念ながら、十年ほど前に他界されてしまいました」
「それは、残念です」
ー 不思議だね。
ー そうね。
そんな不思議なことはあったが、女神アリスを主神とした国を建国する俺達に敵対するハズもなく、非常に友好的な晩餐会を開いてくれた。港町らしい海の幸がふんだんに使われていて俺は大満足だった。
「やはり海の幸があるのはいいですね」
「おお、海のない国の方でそう言われるのは珍しいですね。これも女神様のお導きでしょうか」ラーセル法王は上機嫌で言った。
「ただ、この何日か突然海賊が出るようになりまして、それさえ無ければもっと良いものを用意できましたのに残念です」と法王。
「海賊ですか」
「ええ、海の難所と言われる、キリリス諸島に現れるので退治するのも難儀するでしょう。漁だけでなく、シュゼールとの交易にも差し障りますから、放ってはおけないでしょうが」
「あの難所に出るとは、怖いもの知らずですね。よほど慣れていないと、あそこを通るのは無理でしょうに」ナエル・シュゼール国王でも驚くほどらしい。
「急に始まったというのが、ちょっと気になりますね」
「はい。私も気にしているところでし」
「じゃ、ちょっとお仕置きしておきますか」
「いえ、そのようなことをして頂くわけには……」ラーセル法王は、驚いて言った。
「今度の旅では、訪問した国に何か友好の印を残すことにしてますので、かまいません」
「そうですか。では、よろしくお願いいたします」
* * *
翌日、ラーセル法王を含むオキ神国の代表団十名ほどを乗せて首都シンを出発した俺たちは、次の目的地東方諸国連合ではなく、一度通り過ぎたキリリス諸島に向かった。行ってみると、確かに海賊らしい一団が島影からこちらをうかがっていた。ちょっと脅そうかと下降して近づいてみたら矢を放ってきた。やれやれ。大した人数ではないので、ここは脅しだけでいいだろう。
「ここで、ちょっと停止。軽く脅して来るから待ってて」そう言って俺は上部デッキに上った。
上部ハッチから出た俺は、ちょっと悩んでいた。なんか最近エナジービームしか撃ってない。またエナジービームかよとか言われそう。同じ叫ぶでも、もうちょっとかっこいい名前がいいよな~っ。光線も青白い色にして、腕をクロスさせて発射しちゃおう。名前はスペシ〇ム光線だ。よし、いくぞっ。
「……」 ピーーーーーーーッ。バゴーン。
これ、叫ばないじゃん!
とりあえず、無人の小島とその一帯の岩を吹き飛ばした。流石に、これには驚いたらしく、諦めた海賊は島影から出てきた。
* * *
ただ、海賊にも、事情があった。もともとは海から河を少し上ったところにある漁師の村の住人だったそうだが、最近川の水が急減し船着き場まで帰れなくなったという。食料も底をつき、仕方なく慣れない海賊まがいのことをしていたというのだ。まぁ、事情があったとしても許されないことが……あれ? 川の水が減った?
千里眼で、確認してみたら。彼らの言う川は、先日俺が水を引いた秘境の湖を源流にしていた。まずい、これ俺のせいじゃん。そういや、湖通り越してビームが伸びたけど、あれも関係してる?
「あ、すまん。川の水減ったの俺が原因だわ」
「なんだって~」
俺は、こうなった経緯を話して聞かせて謝罪した。
「いや、わしが許可したのだから、わしの責任じゃ」とヒュペリオン王。いや、王様のせいと言われると誰も何も言えない。というか、実行した人間も、山を吹っ飛ばして川を作ったとか、とんでもないこと言ってるし。そんな奴を敵に回せない。それも、話だけじゃなく実際に目の前で小島を吹き飛ばされてるしな。とてもじゃないが強気には出れない。
「いや、まぁ、そうですけど影響の調査が足りませんでした。ここは、俺がなんとかしましょう」
「うむ。そうじゃの」とヒュペリオン王。
「それで、川の水は今も戻ってないのか?」俺は漁民に聞いてみた。
「だいぶ戻ったんですが、元々岩の多い川なんで、危なくてしょうがねーんでさぁ」と漁民の一人が言う。
「そうか。じゃぁ、その川底の岩を攫って通れるようにしたら。許してくれるか?」
「ホントですかい? そりゃもう願ってもねぇこってす。船が付けて、漁さえできりゃぁ、何も文句ありゃぁせん」
「よし、わかった」
* * *
キリシス諸島にほど近い河口から数キロ遡ったところに、彼らの村があった。
船着き場は、確かに岩だらけの川底だった。俺は船着き場とその周辺の川底の岩を砕き土砂を攫った。やや多めに攫ったので、多少上流から石などが流れてきても大丈夫だろう。
「これでどうだ?」
「へっ? あ、ああ。へい。これならじゅぅぶんで」俺の作業を、口を開けて呆然と眺めていた漁民は、俺に言われて再起動した。
「こ、これは。ああ、ありがとうごぜぇやす。ここまでして貰ったら、もうなんの心配もありぁ~せん。前より楽に船を止められるってもんです」これは、村長のような人らしい。
「ほんに、女神様に感謝です」
「うん、そりゃ良かった」
以前より使い易くなったのなら、いいだろう。
シュゼールのナエル王もほっとした様子。俺は食糧を少し援助して引き上げることにした。
俺は、ちょっと調子に乗っていたかもなと反省した。神力も神化リングで力が増したぶん影響が増えるんだし注意しないとな。
ちなみに、危険な岩を吹き飛ばしてしまったのでキリリス諸島は難所ではなくなったらしい。また、漁師には有難い絶好の漁場にもなったとのことだった。うん、予定通り。ということにしょう。




