第164話 女神だって恋したい!
そんなわけで、神界に恋の季節がやって来た。
てか、来ちゃった。はい、俺のせいです。知らんけど。
これも神化リングの影響なので、また神界評議会で吊るし上げられるかと思ったら、そんなことにはならなかった。どうも、不干渉主義者たちも恋をしたいようなのだ。急に「あれは、いいものですね」なんて言われ始めたらしい。いや、神界に行ってないから聞いた話だけど。
もちろん、神化リングの効果があるのは女神だけではない。男神にも有効である。それを俺が証明しているとも言える。それで、神界全体が恋の季節という訳である。
ただ、現状では神化リングの生産には限界がある。っていうか俺しか作れない。さらに、こんなに影響の大きなものを簡単に供給できない。もちろん、いきなり朝から晩までキューピットじゃあるまいし神の恋の手伝いなんて無理。そもそも神化リングのおまけ的な効果だしな。
そうなると、どうなるかと言うと……。
「いきなり、あんたのグループに入りたいって神様が殺到してるんだけど?」
「やっぱり、そう来たか。神化リング狙いだよな?」
「そうよね」
神化リングが神力パワーを強化するという事だけなら、神力強化の必要のない神様には意味が無かった。しかし、子孫を残せるとなったら話は別だ。今では奇跡のキューピットリングなんて言われているそうだ。
* * *
「で、どうするの? 奇跡のキューピットさん」
「おい! やめろ!」
「でも、何とかしなくちゃね?」
「ううん。本当に、そんなことになるのかなぁ?」
ぽっ
女神カリス登場。
「ごめんなさい。こんな騒ぎになっちゃって」
女神カリスは済まなそうに言った。
「いや、これはしょうがないでしょう。っていうか、悪い事じゃないし。神化リングの影響なので俺のせいでしょう」
「そう言ってくれると助かります」
「それで、本当に神様の子孫が残せるんですか?」
「そこはまだ確証はないんです」
「ああ、そうか。俺にしても美鈴にしても元人間ですからね」
「はい、そうなんです。神格化五十パーセントまでなら今までも実績があったので騒ぐことでは無いんです。ですが、神格化百パーセントでも神化リングがあれば可能性が出てきます」
「可能性が?」
「はい、百パーセント神格化はしていても遺伝子情報は保持しているんです。神力カラーもその影響を受けています」
「ああ、なるほど。そういう個人情報として持ってるってことですね」
「はい。さらに、それだけではありません。顕現して地上界で生活していれば当然その情報に基づいて肉体が作られます。ですから原理的には可能なんです。ただ今までは時間が掛かるので実行されなかっただけです」
「ああ、実質的に不可能だっただけなんだ」
「そうです。ですが、神化リングがあれば別です」
「そういうことか」
「ただし、本当に子供が出来るかどうかは保証できません」
ああ、そういえば、アリスが神界に帰れなかったとき人間になっちゃうとか騒いでたっけ。なんだ、普通に人間になるんじゃん。まぁ、普通は神力枯渇しないんだろうけど。
「あれ? 神界に戻れないんじゃないの?」
「だから百パーセント肉体化したらね」とアリス。
「ああ、そういうことか。神力があるうちはいいんだ」
「そうね。百パーセントにはならないから」
なるほど。ってことは、思いっきり子供が出来そうだな。時間が掛かるって言っても気にしないだろうし。数百年だとしても神様にとってはすぐだよな。例え出来なかったとしても、恋は一握りの希望があれば十分だという話だしな。そりゃ、こうなるか。
しかし、どうしたもんかなぁ。神化リングを作るのはいいけど。ここは第一神様に判断してもらおう。
* * *
ということで、第一神様にお伺いをたてることにした。
ー そうじゃのぉ。難しいのぉ。とりあえず、神化リングは神界に必要じゃろう。いいものじゃ。
ー はい。ありがとうございます。
ー ただ、影響が大きいな。実際、どんな影響が出るのか見極める必要があるしの。
ー そうなんです。需要があるからと供給していいものかどうか。
ー ふむ。とりあえず、今まで通りお主がグループ内で配るのは問題無いじゃろ。問題はグループ外の扱いじゃな。
ー はい。リング欲しさにグループに入るって言うのは、マズいと思います。
ー それでも構わんと思うがの。敵対グループに渡したくはなかろろう?
ー まぁ、そう言われればそうですが、いつまでも敵対していたい訳でも無いですし。そういう政治的な使い方はしたくないと思ってます。
ー そうか。ならば、グループ外では、わしが供給するとしよう。無理せずに神化リングを作ってくれれば、それで良い。
ー 分かりました。
ー ああ、わしが供給するリングとお主がグループ内で渡すリングを区別できるかのぉ?
ー はい、それならデザインを変えましょう。
ー うむ。そうしてくれると助かる。では、頼んだぞ。
ー はい。お任せください。
ということで、いままではテスト扱いだった神化リングだが、こうして正式に神界に供給されることになった。しかも第一神様自ら供給してくれることに。
* * *
「あんた、さらに重要な存在になったって認識してるわよね?」
ことの成り行きを横で聞いていたアリスが突っ込んできた。
第一神様に相談したので、俺の執務室には女神隊全員が集合している。
「そうよね。第一神様を政治的にも強化したことになるわね」とイリス様が説明してくれた。
「なるほど」
「相変わらずなのである」
「やっぱり、リュウジ怖い」
「うっ」
「ほんとに、面白いよね君。何しでかすか楽しみで仕方ない」と女神スリス。
「お互い様です」
最近女神隊に入った俺の元上位神の女神スリスも来ていた。
「でも、これで一安心だ。第一神様にお願いしちゃったからな」
「ちゃっかりしてるわね!」とアリス。
とりあえず、風当たりは弱くなるだろう。
「でも、神界の政治に全く無関係ではいられないかもね」
俺の元上位神の女神スリスのほうが神界の事情に詳しいから気になるようだ。
「ああ、確かに第一神様からも神化リングを供給するけど、俺のグループに入るのが一番近道だからな」
「そういうことね。それに第一神様経由だけど、供給量は君が決めるわけだし」とスリス。
「あっ」
「自分で気が付いてないし」とスリス。
「ちょっと、女神隊を増やすのは中止するか?」
「そんなこと、しなくていいんじゃない? 本気で入りたいかどうかなんてバレバレなんだし」アリスが指摘する。
「ああ、そうか。入れてみてダメなら外せばいいしな」
「そうよ。遠慮は無用よ。そう言っとけば無理やり入ることもないでしょ?」
「うん。そうかもな」
俺のグループの事はともかく、神化リングの効果と可能性が広く知れ渡っただけで神界の雰囲気がガラッと変わったそうである。実際に神化リングが手に入るかどうかとは、また別の話であるようだ。今まで無かった可能性が生まれたのが大きい。結婚なんてずいぶん先の話なのに心を躍らせる思春期の少年少女のようなものか?
* * *
しかし、話はまだ終わっていなかった。
ある日、女神スリスが執務室にやって来て言った。
「元、君と同じグループだった神からグループ加入の話が来てるんだけど?」
俺の記憶がないので、元上位神だった女神スリスに話が来るようだ。女神スリス配下の神もいるんだろうしな。
「そうは言ってもなぁ。全然記憶ないし。いや、記憶がちょっとだけある神様とかもいるんだけどね。百年分だけなんだよな」
「ううん、君がこの世界の担当神になったあと地上界にばかり居たから、あまり知り合いは多くないと思うけど……」
「その二千年分の記憶が無いのは、やっぱり大きいな」
「それって、君が神界にいたほとんどだからね!」
「あ~、そうなんだ。その前ってどうだったの?」
「その前? それは、普通に人間よ」
「いきなり、人間から神になったの?」
「そうじゃなくて、一旦霊界に入るの。そこで見出されて使徒になったり、神になったりするのよ」
「そうか。じゃぁ、無くしたのは二千年分だけか!」
「たぶんね。たかだか二千年よ。ただ、君の事だから彼方此方に迷惑掛けてた気がするけど」
「あ~っ、その記憶は戻したいなぁ。てか、戻さないといけない気がする。う~ん、なんとかならないかな~」
そう言って俺が考えているのをみて、女神スリスは驚いていた。
「それって、まだ可能性が残ってるってこと?」
「うん? まぁね。すぐには実現しそうもないけど」
「やっぱり君、おもしろい!」
俺、面白いんだ。