第161話 未来視-神界で大歓迎される-
幽閉直前の記憶が回復したことで、当然のように俺のグループとその周辺では色々と騒がしくなった。だが、それにも増して騒がしくなったのが俺のグループとは直接交流のない派閥のほうだった。
記憶の戻った俺が、未来視についての研究成果を神界一般に開放したからだ。公開した未来視は『未来の自分が見るものを見られる神眼』だ。これは本人限定のサブセットではあるが使い易く十分実用的なものだ。
もちろん未来が混とんとして不確実な場合は複数見えたり、何も見えなかったりする。しかし、これは俺のツールの不備ではない。現状、そういう未来だと言うだけの話である。そして、現時点に於ける最も確実な未来予測と言える。
そして、未来氏の公開は自分の世界を制御したい神々からの絶大な支持を得ることになった。自分の行動が信仰を通して直接神力にフィードバックされる『神』にとって、未来視は最も頼もしいツールとなった。これがあれば、今までより小さい労力でより良い結果を生み出せるようになるだろう。少なくとも、問題を先取りして修正が可能になるのだ。歓迎しないほうが可笑しい。
「ほっほっほ。やりおったのぉリュウジ。ワシもお主を第二神にした甲斐があったというものじゃ」
第一神様に呼ばれて誉められてしまった。
よく分からんけど、神界で途方もない支持が集まったようだ。その辺、第一神様には手に取るように分かるらしい。まぁ、アプリのダウンロード数がトップになったようなものなのだが利益を生むアプリなのだ。
おかげで、特別な式典みたいなものは無いが高原台で第一神様の強力な後光を浴びることになった。
「これで、恒久第二神となった。これからも期待しておるぞ」
「あ、はい。わかりました」うん?
言ってしまってから気づいたけど、俺はまたドツボにハマったか?
* * *
神界から王城の執務室に戻って来たが、そこにはアリスが待っていた。
ー 恒久第二神って何?
ー あんたね~。
ー だって事後承諾だったし。
ー 普通、神界の位は上位神により自由に任命されるでしょ? けど、恒久ってことは第一神様でも降格できないってことよ。
ー は~っ? いや、降格してもらっていいんだけど?
ー もうだめよ。っていうか、私が困るわよ。女神隊全員困るわよ。
ー そうか。あれ? でも、やめられるんだよね?
ー 止められないわよ。
ー それ、全然ご褒美じゃないじゃないか。
ー 神界の位って、ご褒美だと思ってたの?
ー あ、そうか。ブラックだもんな。そんなわけないか。出来る奴は使い倒すんだもんな。
ー ま、そういうことね。しかも、倒れても大丈夫だし。っていうか倒れないし。
ー そうか。ちょっとくらい、ご褒美あってもいいと思うんだけど。
ー それ、あんたが作るしかないわね~っ。女神湯みたいに。
ー ああ。そだな。神様って、それも自分でやるんだな。可哀そう。
ー そうなのよ。だから、神同士で癒し合うのよ。
ー そうか。そりゃ、神界リゾートが流行るわけだ。
ー そういうことよね。
ー でも、もっとこう内緒の隠れ家的なものが欲しいよなぁ。
ー 内緒の? そういうのは人間だけの楽しみじゃないかな。
ー そうだな。けど、それも必要な気がするな。
ー そうなの? そんな隠れ家的なものを作るつもり?
ー えっ? 俺が? ああ、無いなら作るしかないか?
それはともかく、恒久第二神になって、ますます神界から逃げられなくなって来た。っていうか、そもそも神界から逃げられるんだろうか?
いや、別に逃げる予定は無いんだけど。無いけど、出来るかどうかは知りたいもんだ。あ、でも幽閉されればいいのか? あれって、ご褒美だったのか? 第二神じゃもう幽閉してくれないよな?
そういえば、召喚すると神界の管理から外れるんだよな。ってことは、逃げられるじゃん。てか、俺って一度逃げてるじゃん。なんで戻っちゃったかなぁ。あっ、神界に殴り込んだんだった。あほか!
ってか、人間になるのって普通にご褒美なんじゃないか?
ご褒美はともかく、未来視がそこまで支持を集めたと聞くと、何か俺の知らない理由があるような気がした。
ー 最近、不干渉主義者から評判いいのよ。あんた。
ー は? そんなわけないだろ? 嫌われてたよな?
ー そうだけど。このところ当たりがいいのよ。たぶん、あんたのツールは結果として彼らのためになってるんじゃない? 世界への干渉を減らせるわけだし。
ー 減らす?
ー そう、未来予知で無駄玉が減るのよ。つまり、干渉が減ることになる。
ー おお、なるほど。
ー しかも、不干渉主義者が一番気にしてるのは神力の消費じゃない?
ー やっぱりそうなのか。
ー 無駄が減るから神力の消費も減る。彼らも、全く干渉しないわけじゃないから有難いみたい。
ー 多少は干渉するのか?
ー ああ、基本的なパラメータ位はいじると思うわよ。
ー それも、無駄が無くなるわけだ。
ー そうそう。
ー なるほど。家計簿の赤字を無くしたら感謝されるわな。
ー 当然よね?
その後、敵対していると言われていたグループから、謝罪と今後の友好を約束するとのメッセージが届いた。直接話すのは避けたのか? まぁ、いいが。
* * *
「ふうん。神界も大変ね」
ニーナが他人事のように言った。ここは東宮の談話コーナーだ。
「そうだな。でも、本気なら朗報だ」
「そうね。敵対する必要がなくなったんでしょうね」
「なくなった?」
「ほら、ラームで大事な神力の消費を抑えるわ。神化リングで神力パワー増やすわ。子孫も残せるわ、未來視で労力も減らすわ。しかも未来が分かるから昼寝も可」
「ああ。確かに。敵対するほうが間抜けだな。けど、昼寝の後は地獄かもよ?」
ー そんなこと言ったから、要請が届いたわよ。
ー 要請?
ー そう。百年じゃなくてもっと長く未来を見たいって。
ー そんな。無理だって。
ー まぁ、安心して昼寝したいんじゃない?
ー そういう時は昼寝するなよ!
ー そう言っとくわ。
ー コリスだろ?
ー バレてるし。
意外とタフな女神だな。