第113話 神界向けリゾート
南北大陸へ行く前から分かっていたことだが、子供達の誕生日ラッシュがやって来た。
最初の三人が同じ日。ニーナのサリー、ミルルのラティス、セシルのセリーヌ。その後セレーネのフィルナス、アルテミスのエイレ、リリーのヒナノと続く。
誕生祝を別々にやっていたらきりがないからとニーナが仕切ってまとめて祝うことになった。
物心が付くまではいいのか? 母親がそれでいいならいいか。個人的には子供は自分を思ってほしいものだから別々にやってあげるべきだよな。
ま、それでも最初の三人は一緒になってしまうけど。
ただ、王族の場合の最初の誕生日は個人的なイベントでは済まないらしい。
「飾り付け、終わりました」
侍女長のマリナから報告があった。何事につけても衰退していた頃に省略されていた習慣などが、繁栄と共に復活し始めている。
「南北大陸派遣から戻ってすぐで悪いね」
南北大陸へ行っていたメンバーのピステルが来てくれていた。
「何を言ってる。昔ならともかく今は直ぐに来れるんだから問題ないよ」
ピステルは意外と付き合いのいい奴だ。
「そう言ってくれると助かる」
まぁ、派遣中も時々見てたから子供が元気に育ってるのは知ってるんだけど。
「おお、ちょっと見ない間に大きくなったのぉ」とヒュペリオン王。
いや、あんたも、最近まで見てたよね? 聖アリステリアス王国の王様は、もうメロメロ状態だ。
派遣中も子供の部屋に入り浸りであんまり出てこなかったよな。あ、王都に送ったとき、それでぐずってたのか。
ちなみに、テイアさんが転移で連れて来たらしい。そうか、すぐ来れちゃうんだ。ウィスリムさん泣いてるな、きっと。まぁ、でも戻ったという事実が大事だからな。
最初は小さいサロンに親戚一同が集まってささやかなお祝いをしようかと思っていたのだが、最初の誕生日は特別なんだそうだ。
誕生日を纏める意味が分かったよ。これを、何度も出来ないもんな。ま、個人的なお祝いは内内でやればいいんだし。
っていうか、ベビーブームなんだから国中誕生日だらけだよ。国中誕生日ラッシュだよ。もう国を挙げておめでとうだよ。
ってことでビデオ映像で誕生祝のセレモニーを首都の空に映し出した。
さすがに、祝いの言葉と軽く今の子供の様子を映像で紹介しただけだが。次は成人式か?。
ちなみに、出席していない各地の王様たちからも祝いのメッセージが届いた。
ビデオ配信してるので自分も何か言いたくなるわけだ。南北大陸の王様たちからの映像が流れると、ひと際歓声が上がった。俺達の南北大陸派遣が成功した証でもあるからな。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
もう、何度言ったか覚えてない挨拶が続くホール。
元老院議員や主だった国の機関の長たち、モートン神父なども駆けつけてくれた。
ま、女神様が来てるしね。第一神様が来たらどうしようかと思ったがメッセージが届いた。神魔フォンも渡してるしね。神様がビデオ配信しちゃまずいよな? あ~もう、それもいいかも~。別に神様って言ってないし。この世界限定だし。
さすがに第一神様の顕現は控えたほうがいいとは思うけど。
「そうなのよ。いいと思うのよ」とアリス。
「アリス、最近特に積極的だね」
「そうかな? 最近こっちに居ることのほうが多くなったからかなぁ? いちいち細かい事考えなくなってきてるし」
「まぁ、いいならいいけど。混乱させないようにしないとね」
「うん、そういう意味では、噂話的に広まったほうがいいよね。きっと」
「噂話?」
「そう、女神湯みたいに、『女神様が入りに来るんだって!』っていう、人伝えで自分は直接タッチしないから困らない的な話ね」
「ああ、確かに、目の前に来られちゃうとどうしていいか分からないから困るけど、遠くの国なら楽しい話題で済むからな」
「うんそう。それでそのまま常識になってしまえば。えっ? 神様いるよね? みたいになる」
「そんなに、うまくいくかなぁ? とりあえず、ルセ島の噂は流れてるみたいだし、この国の噂も結構流れてるよね」
「噂話どころか、この街の住人はリュウジが神だって知ってるみたいだよ」
横からピステルが言う。
「なに? ほんとか?」
「なに? じゃないよ。それ、もう常識だから。てか、聖アリステリアス王国でも常識だから」ニーナからも突っ込まれた。
「まじか。どっから漏れた?」
「いや、こっから思いっきり漏れてるし。アリステリアスの王様、自分の首都で自慢してるし」
「へ?」
「いや、なに。娘三人が嫁ぐ相手としてはそのくらいじゃないとな。わっはっは」とヒュペリオン王。
「わっはっは、じゃないです。言っといてくださいよ。まぁ、少しずつバラすつもりだったので今更いいですけど」
「ほら、先に言って貰わないと困るだろ?」
ピステルが女神様の目の前で教えられたときのことを思い出したらしい。
「わかった。悪かったよ」
「うん。分かってくれれば、いいんだ」
意外と根に持つ奴なのか?
「で、俺以外に女神様が顕現してるとかの話はどこまで流れてるんだ?」
「ああ、君の国と聖アリステリアス王国ではもう常識だね。あと、中央大陸だとそれぞれの国の首都では、ほぼ常識みたいだよ」
「なに? なぜだ? 良くそんな話信じるな」
さすがに、浸透し過ぎな気がする。
「いや、君ね~っ、最近自分たちが何やってるか分かって言ってる?」
ピステルは腕を組んで呆れた表情で言う。
「飢饉の時、食糧を大量に分けてくれたり、自分たちの国を突然復興してくれるってだけで信じられないのに、空飛飛ぶ魔道具作るわ神託みたいな魔道具ばら撒くわ。おまけに、大陸中巻き込んで舞踏会とか開いちゃうし。こんな人が突然現れたら神様だと思うよ普通」
ピステルの説明に、嫁全員が頷いている。ていうか、横で元老院議員も頷いてる。最近打ち明けた時、思いっきり驚いてた奴いたけどな~っ。
まぁ、単なる魔道具でも、それを認識する知識を広める前に出したから、神の御業ということになってるわけか。江戸時代の人にスマホ見せたら、そう思っただろうしな。
「なるほど。これからは、ちょっと控えよう」
「いや、もう遅いから。殆ど崇拝しちゃってるから」
「なんだって~! ううう。ん? ちょっと待て。それ、俺が神になっちゃった原因じゃないよな?」
「あっ、そうかもしれない」これはアリス。あまり信ぴょう性はないと思われる。
ー なんでよ。
ー だって、自分で不思議がってたじゃん。
ー そうだけど。
ー けど、俺がニーナを使徒にしたのって、結構前なんだけど?
ー え~っと、水不足を解決して旧領主館を貰った頃よね?
ー うん、その頃だな。えっ? アレが原因なのか?
ー 分かんないけど、あるとしたらアレよね。それだけ、有難かったんじゃ?
ー 確かにな。雨乞いされたようなもんだしな。それをスルっと解決したと。
ー そうよ。しかも、確実にあんたのおかげって分かるやり方で解決してるし。
ー そうか、あの時からか。あれ? でも神が地上界にいると神力届かないんじゃないの? 俺、切れてないけど?
ー え? ああ、あれは担当神のみよ。不干渉主義者が担当神に制限かけてるの。
ー なんだ、そういうことか。変だと思ったよ。じゃ、アリスは今切られてるのか?
ー 私はもう、単なる担当神じゃないくて第二神だから大丈夫よ! 絶対切れないわね。
ー ははは。そうか。それにしても、俺がアレだけで神になったとは思えないんだけど?
ー う~ん、でも他にないじゃない。
「ホントにそうかもね」イリス様も同意見らしい。
「ちなみに、俺もその崇拝してる一人だけど」
ピステルが平気でそんなことを言う。崇拝だよ? ん~、こいつの話は話半分で聞いておこう。
「まぁ、俺が神になったいきさつはいいとして、だからと言ってさらに沢山の神様が地上界の彼方此方に顕現するってのは、ちょっとまだ早いよな?」
「どういうこと?」とアリス。
「いや、俺とアリスが神ってのはいい。けど、ルセ島には他の神様も自由に降りていいことになってるから、ますます降りてきて、もうすぐ満杯になりそうだ。そうすると、じゃぁ普通の街に顕現してもいいのかって話になる。何処かに専用の施設が必要かも」
「婿殿、確かにルセ島は最近手狭になって来ておるようじゃの」
やっぱりか。そうなると悠長な事言ってられないな。
「やはり。もっと大規模な神界向けリゾートを作ったほうがいいかも知れないな」
「確かにのぉ」
「ん? これって、もしかして各国にも参加して貰ったほうがいいのか? さすがに、秘密にしておくのは出来ないよな?」
「おお、それは素晴らしい」
静かに聞いていた元老院議長のマレスが思わず口にする。
「まさしく、そのとおりじゃな。神様の訪れるリゾート作りに協力できることなど、そうそうあることじゃないからのぉ」ヒュペリオン王も賛同する。
「普通はありませんよね。またとない機会ですし、ぜひ参加したい」ピステルも乗る気だ。
「分かりました。検討してみましょう。まぁ、簡単にはいきそうもないですが」
「それは、そうじゃの。じゃが、面白い」と王様。
「わくわくしますな」とマレス。
「うん、リュウジがその気なら、俺はいくらでも手伝うよ」
おっ、ピステル、頼もしいな!
話がでかくなった。まぁ、神様相手の話なので、ゆっくりじっくり考えたほうがいいだろな。