第84話
「あんたさっきから何をしらばっくれてるのよ。全部あんたが仕組んだんでしょ。
あんたのせいでこっちがどんなに迷惑したか」
みなみは怒気を荒げた。画面越しでも伝わるすごい剣幕で睨んでいる。だがマリアはカメラをつけてないので、デフォの通話画面にだ。
「落ち着いてくださいよ、みなみさん。私は何も関わってないし、いきなりそんな事言われて、状況が飲み込めないでいるんです」
震えた声で否定をする。はたから見たら被害者に見えるだろう。
「うそおっしゃい。貴方が自分で認めて高笑いしてたじゃない」
「みなみさん、撮影で疲れて幻影でも見てるんじゃないですか。それかなにかいかがわしい事でもやってるんじゃ」
薬の存在を仄めかしたマリアにみなみの血管はぶちきれそうである。
完全に言い逃れるき満々だなと歯軋りをした。
「いつまでもとぼけてんじゃないわよ。それに弱者のふりまでして、あの時みたいに本性表しなさいよ」
「これじゃあ拉致が開かないですね」
見かねた達夫が制裁に入った。コメント欄ではマリアが優勢で旗色は悪かった。甘い声に耳抜きにされたようで、心酔している
ものが多い。みなみに対しては、罵詈雑言の嵐であった。
マリアはほくそ笑んでいた。呼び出された時はどうなるかと思っていたが、いざ対面してみると容易いものだ。
こっちは無知を装えば、観客が都合のいい解釈をしてくれる。被害者づらをしておけばいい。
厚顔さと腹黒さを備え持つ、私にしかできない。今もなお優位に立てるにはどうしたらいいか奸智を働かしている。
その様子を社長である西原はただただ呆然と様子を窺っていた。
特に問題はなさそうだ。と思ったのも束の間、事態は急転落下へと向かっていく。
「相良さん。あなたの話だけでは憶測の域を出ない。なにか確定的な証拠はないんですか」
達夫が何の気なしに聞いた言葉を、みなみは待ってましたと言わんばかりに食いつく。
「証拠ならありますよ」
「えっ」予想外の返しに思わずたじろいだ。あるなら最初から出せよと思ったが、思考ごと飲み込んだ。
「どーゆうことですか」
「実はマリアとの会話を全て録音していたんです。音声データがあるんで今から送ります」
「それはありがたい。これが本当なら勝機を掴む事になりますよ」
すぐさま添付されたメールが届いた。それを開くと同時に、
気がかりに思ったことをぶつけてみた。
「でも言っちゃあ何だが、相良さんにそんな芸当ができると思ってなかったですね。
いったい何の風回しですか」
「やだなぁ、達夫さんがアドバイスしてくれたじゃないですか。
いつ何があるかわからないから、ボイスレコーダーは携帯しておけって」
「そういえば教授しましたね。言いつけ厳守の模範となるいい生徒だ」
空気がガラリとかわり和気藹々と団欒する男女。
打って変わってマリアの顔に明らかな狼狽が現れた。
音声データだと、そんなこと考えてもいなかった。
不安に駆られて社長に視線を送るが、鳩が豆鉄砲喰らった顔をしている。
全く頼りにならない。どうにかできないか。
送られたデータを読み取る数字が時限爆弾のカウントダウンに類似していた。
現状を打破する一手を打たないとやばい。焦燥感に駆られる思いで頭を捻るが、
時すでに遅し。解析された音声が無情にも全世界へ発信された。
「撮ったものを週刊誌に売ったんです。まぁ雀の涙程でしたけど」
文句の付け所のない証拠となる一声だった。もはや言い逃れなどできない。
観念したマリアは洗いざらい話した。




