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スキャンダル女王  作者: オメガ
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第二話

東京都港区六本木ヒルズの6階に位置する、料亭風の店構えのレストラン。

全部屋個室となっており、プライバシーが厳重なので、芸能人がお忍びで訪れたり、政治家達の密会場所にも使われている隠れ家的なお店だ。時刻は20時を回る。

今日も密会に使われるであろう際奥の角部屋の個室に、黒光りのスーツを着用した男2人が談笑していた。



「この前、仲良くしてるテレビ局のディレクターが、制作費が年々下がってるからやってらんないって愚痴ってたよ。」

上座に座ってる園田は、精悍な顔つきでグラスを傾けた。


「そうですか。不景気の煽りがここまできてるって事ですかね」


部下である岡井は、さあさと赤ワインの入ったボトルを近づける。


「それもあるんだが、代理店から貰える広告費がネットの方に流れているんだと。


スポンサー契約してる企業も、テレビよりネットの方が購買欲求の高い若者が見るから、徐々に移行する動きを見せてるんだとか言ってたな」


「確かに動画配信サービスも近年増加してますし、動画の数を充実させるだけでは留まらず、自分たちで予算を掛けてオリジナルを制作して、よそと差別化を図る企業も出てきましたからね。」


岡井は思索にふけった顔で言った。


「映画一本作るのに最低でも億って金が動くんだぜ。どんだけ儲けてんだって話だよな」


園田は新鮮な造りを口に放り込み、ワインで流し込んだ。


一見ミスマッチに見えるが酸味の効いたワインは魚介の風味を打ち消してくれるんだとか。

ガリ代わりにちょうどいい、と豪語している。

グルメ通の園田が言うならと社内で倣らう者も多い。

岡井もその1人だ。


「海外の上場企業は事業投資に掛けるお金も桁違いですからね。日本人にはとてもじゃないけど真似できませんよ」悲観的な顔で岡井は言った。


「このまま行くとお金も人員も海外企業に流動されちまうな。日本の景気を悪くさせない為にも日本のテレビマンには頑張って貰わんとな」そう言って園田は目尻を下げて笑った。どこか他人事のように感じる。



「そうですね」真剣な眼差しで岡井は頷く。



「まあこうは言っても、俺らにとっちゃあどっちでも構わないんだけどな」


あっけらかんな口調で応えた園田は視線を豪華な料理に移した。

2人はこう見えても業界最大手の芸能事務所の社員である。


2人が勤務する「ロッドアミューズ」はマルチに活躍するタレントを数多く輩出しているが、最近は役者業に力を入れており、スカウト、勧誘による人材補給。新人育成の為の学校まで立ち上げた程だ。

勿論、古参から在籍している役者も多いので、テレビ局、制作会社には友好関係で築くあげたパイプもある。キャスティング戦争においては、強いアドバンテージを持っている事務所だ。


「俺らが気にしなきゃいけないのは、時代の流れを見て所属タレントを、どこに振り分けるかが今後の鍵になっていく。変遷を見誤ったら俺らの存在意義がなくなっちまう」


園田は鋭い眼光を真正面に向ける。

力強い視線に一瞬たじろいたが、はい、と深くうなづいた。



そんな時、個室の扉が開く音がした。


2人は部屋の入り口に目線を投げると、そこには凛々しい立ち姿の女性がいた。

黒いワンピースに肩がけの手提げ鞄というラフな格好で、白い帽子とサングラス。

さらにマスクまで着けて顔を隠している。お忍びとはこの事だ。と模範になる格好である。2人は立ち上がり会釈をした。


「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」お客様をもてなす口調に変わった園田は、椅子に掛けるのを促すように、右手を差し出した。真正面に座っていた岡井はすぐさま移動し園田の隣に着いた。


「すいません遅れてしまって」そう言って彼女は頭を下げて席に着いた。


3人での会食予定なのに2人が先に飲み食いしていたのは、彼女から遅れるとの一報があったからだ。何も注文せずに待つという選択肢もあったが、彼女がきた時に申し訳なさで気兼ねするだろうという思いからの配慮だ。


「いえいえ、撮影が長引いたのでしょう?お忙しいなかお呼び出ししてしまい申し訳無く思っています」園田は顔を和らげ謝罪の意を述べた。


いえいえ、とんでもないと言って彼女は顔を覆っている小物を全て取り払った。

輪郭の整った綺麗な顔が露わになる。相楽みなみがそこにいた。


彼女の事務所は「コスモキャリー」という設立して5年の若い会社だ。所属タレントの相楽みなみを筆頭にテレビ、映画、舞台、と躍進して勢力を確実に伸ばしてきているが、まだまだ弱小事務所である。そんな彼女が最大手事務所の社員と会食するのは、キナ臭い話である。


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