第十六話
翌日、みなみは下北沢にある小劇場へと足を運んだ。
昔所属していた劇団員に会うためだ。
くだんの劇場はビルの五階に位置しており、外観はヒビ割れがとろろかしこにある年季のはいったコンクリート造のビルで、
下北ならではの風情があるなとかんじていたが、階段を上がり古びた鉄製にドアを開け中に入ると、
リノベーションしたのか真新しい印象を受けた。
壁紙は純白でカウンターや椅子、雑貨は黒一色に統一されたシンプルなデザインだ。
無駄なものは一切なく、関節照明で照らされた雰囲気は劇場というより、オシャレなバーに来たと錯覚させられる程である。
カウンターで二千円払い、観客席へ向かう。
階段式の座席となっていて、みなみは最上段中央の見下ろせる席に腰を下ろし、あたりを睥睨とする。
公演間近だというのにお客さんはまばらだ。50席ある中の半分も埋まってない。
舞台上に目線を向けてみる。横幅6m高さ4m程だろうか。奥行きは3、5mはありそうだが、中々の手狭だ。アクションなどの舞台上を駆け回る演技は物理的に無理そうだ。
これでは演者の人数を減らし、会話形式を主軸に物語を進めるしかないだろう。
私が所属していた頃は、もっとでかい箱で公演を行なっていたのにな。と元団員はしみじみ追懐する。
みなみが劇団のホームページをスマホで発見した時、懐かしさよりも規模が縮小してた事に、もの寂しさを覚えた。
開演までの間、手持ち無沙汰になったので、舞台上の一点を見つめ今朝の光景を脳内に投影する。
ジャムをふんだんに塗りたくったトーストを頬張りながら、2人で今後の作戦会議をした。
「とりあえず当面は「ドラマを自費制作」を標榜とするとして、問題は人数集めよね」
詩織が無糖のコーヒーを啜った。「素人ばっかり集めても効率悪いし、かと言って制作経験者は本業が忙しくて時間取れないだろうし。取れたとしてもスキャンダル女優と一緒に仕事したいなんて変わり者そうそういない思う。うーん。早くも暗礁に乗り上げたわね」
「要は演出に精通していて、私と関わっても支障が無い人を探せばいいんでしょ」
頭を悩ませる詩織にみなみは、ぽそりと言った。
「そんな都合いい人・・・・・なにか妙案がありそうね」
「私が前に所属していた団員たちに頼むのはどうかな?あの人達なら詩織がいってた条件をすべてクリアしてると思うけど」
詩織が目をしばしばさせ思案めいた顔つきに変わった。そして、いいわねそれ、と指を弾いて音を鳴らす。
「見立てはどう?協力してくれそうかしら?」
うーん、みなみが首をすくめて、畝り声を漏らす。見るからに自信無さげだ。
「そこは賭けだよね。私を疎ましく思ってるグループも結構いたし。庇護してくれた人がまだいてくれるといいんだけど。あわよくば決定権を持ってると事がスムーズに進めれる」
「その一縷の望みに賭けるしか無さそうね。あんた1人で大丈夫?私も行こうか?」
「いや大丈夫」みなみは首を左右に振った。「ここは私に任せて。詩織もやる事山積みでしょ?」
そう。じゃあ任せる、と言って詩織が支度を始めた。独立するにあたって色んな手続きがあるのだろう。
それを横目にみなみはスマホで元劇団の検索をした。そしたらちょうど今日公演をやっているではないか。
早速身支度を整え、藁をも掴む思いで今に至る。