angel attack ②
大雨の中、何度か雷鳴は響き渡ります。
人通りの多かった通りもすっかり人の気配がありません。
しかし、その通りの真ん中を私と同じように深く外套を被った方が歩いております。
他人のことをとやかくは言えませんが、荷物もなく、何やら不審な感じです。
騎士の業務の中に警邏があります。
私はまだ、小姓の身分ですが、いずれは従騎士になるわけです。
職務質問はしておいた方が良いでしょう。
まぁ、前世の警察の様に威圧的にではなく、ですね。
「雨の中、いかがされましたか?」
声をかけてみると、笑みを浮かべた男性でした。アルカイックスマイルと言う奴でしょう。
いやに整った顔でそれを浮かべると、まるで人形のようです。それかアイドルです。ご婦人方は放ってはおかないでしょう。
「ん?ああ。いえ、あなたに用があったんです。探す手間が省けました」
ん?
「あなたは、神聖なる祈りの場にて、我が主より御言葉を賜ったでしょう?私があなたの元に訪れる、と。私は『神の使徒』にして『贖罪天使』の1人。我が主の命にて、あなたの存在の終止符を打つためにこの地に舞い降りました」
■ □ ■ □ ■
天使を名乗る男と対峙する私。
「しかし、あなたは不思議な存在ですね。デーモンであるのに邪気がない。無垢そのものです」
「えーっと、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
突然、私の存在に終止符を打つと申す方に言われ、私もパニックです。
おそらくはこの方が、異端審問官という方なのでしょうが。
「ああ、そうでしたね。平素は中央教会で異端審問官の人間をしております。天使のハミュエルと申します」
「ハミュエルさんですか。バーンズ騎士団で小姓をしております、1つ星冒険者のデーモンです」
「実にうまく、人間の世界に溶け込みましたね。いや実際お上手です」
「いえ、私、実は中身は人間でして」
「……は?」
美貌が台無しになっているハミュエルさんです。
「いえ、私、あなたの主さんによってこの世界に連れてこられた人間なのです」
「……嘘ではないようですね」
「はい。その上で私、あなたの主さんから『受肉の素体はない。好きにするが良い』といい、あの真っ白い世界から追い出されたのです」
「……嘘ではないようですね、本当に」
「ですので、あなたの主さんの『仰せで』肉体を探してたら、デーモンとして体を得たのです。好きにするが良いという『仰せの通りに』デーモンとして人間の世界で生活をしているのです。『仰せのままに』」
少々誇張して返答をしてみましたが、これくらいの趣旨返しは良いでしょう。
「虚偽なく、我が主の命令でデーモンとしての生を送っていらっしゃると申しましたか……。いや、しかし、私の我が主からの命令は『神の敵となる者に終止符を打て』で……」
「おかしいですね。相反する命令を別の人物にするなんて。ハミュエルさんはその命令を受け、どのように動こうとされていたのですか?」
「私は……、『神敵』たるデーモンに加味するバーンズ子爵の真意を問いただし、教会の我が主への信仰を示してもらうつもりでした。そして、神威の代行としてデーモン、あなたを討伐する予定でした」
「バーンズ子爵の真意ですが、バーンズ子爵は私の雇い主です」
「……魂の契約などは?」
確かに。悪魔でしたらば、契約。思い出せませんでしたが、言われれば。
「雇用契約と金銭、バーンズ子爵領における生活の後ろ盾として契約は結んでいますね」
「デーモンが保護される側なのですか……?」
「教会のフランシス司祭からは出会いがしらに『浄化』をかけられた」
「教会の信仰は確かなようですね?では、なぜ教会という聖域に侵入したのですか?」
「掃除をしに」
「掃除をしに?」
「……やめましょう。あなたと話していると私の頭が混乱します。私は私の受けた命令を実行するだけです」
■ □ ■ □ ■
「ではハミュエルさんは、私を討伐する……と?」
「そうなります」
「あなたの主さんが、私にした命令を、私が実行中ですのに、それを妨害するのですか?」
「……あなたへの我が主の命令よりも、私に下された命令の方が後ですから……」
「それはおかしいですよ。法の不遡及に反しています。あなたが私を討伐した後、その後別の方に別の命令が下り、あなたの行いが間違っていたとしたらあなたは許容できますか?『デーモンを討伐したハミュエルは、神の命令に背いた者なので討伐せよ』と他の天使さんに命令が来たら、あなたどうするんですか?」
「そ、そのようなことはあり得ません。神が!我が主がそのようなことを申されるはずは!」
「今の私がそうですよ?」
沈黙。
雨が屋根を叩く音、泥をはじく音、外套にあたる音だけが響きます。
「……一度この案件は持ち帰った方がよろしいのでは?」
「そうさせていただければありが―――
近くに落雷が落ちましたね。
「―――いえ、やはり命令は実行いたします」
ハミュエルさんが真顔です。
表情も消え、まるで人形です。
「我が主は『あなたの存在以外、この世界の全てに間違いはない』とおっしゃっております。間違いは正さなくてはなりません」
「……つまり、神が間違ったのですか」
「いえ、間違いが正されれば、それは間違いではありません。そうです。試験において間違いに気づき、それを修正するのは正しい行いです」
「……それは試験だからですよ。実際の世界は試験ではありません」
「面白い問答ができ、私も楽しかったです。ごきげんよう。デーモンさん」




